判旨
第一審が犯罪の証明がないとして無罪を言い渡した事実について、控訴審が新たな事実の取調べを行うことなく、書面審理のみによって有罪と自判することは違法である。
問題の所在(論点)
第一審が「犯罪の証明なし」として無罪を宣告した事実について、控訴審が事実の取調べを行うことなく、書面審理のみに基づいて有罪の自判をすることが許されるか(刑訴法400条但書の解釈)。
規範
第一審で無罪とされた事実に対し、控訴審が自ら有罪を認定する場合には、訴訟記録や第一審の証拠に基づく書面審理のみで行うことは許されず、原則として事実の取調べを行わなければならない。これに反する自判は、判決に影響を及ぼすべき違法(刑訴法411条1号)に該当し、著しく正義に反するものとして破棄の対象となる。
重要事実
被告人は貸金業法違反、詐欺、詐欺未遂の併合罪で起訴されたが、第一審は貸金業法違反のみを有罪とし、詐欺および詐欺未遂については無罪を言い渡した。検察官が控訴したところ、原審(控訴審)は第一回公判期日で控訴趣意書の陳述等を経ただけで事実の取調べを行わず、訴訟記録と第一審の証拠のみを検討する書面審理により、第一審が無罪とした詐欺等の事実を認定して破棄自判し、被告人に懲役刑等を言い渡した。
あてはめ
本件では、原審は第一審が証拠不十分として無罪とした詐欺・詐欺未遂の各事実について、第一審の証拠を再評価するのみで事実認定を覆している。しかし、証拠の直接的な取調べを行わずに書面審理のみで無罪を有罪へと変更することは、当事者の防御権や直接主義・口頭主義の観点から問題がある。最高裁大法廷判例(昭和31年7月18日)の趣旨に照らせば、このような書面審理のみによる有罪への自判は手続き上重過失といえる違法があり、著しく正義に反する事態を招いていると評価される。
結論
原判決を違法として破棄し、事実の取調べを尽くさせるため本件を原裁判所に差し戻す。
実務上の射程
控訴審における「逆転有罪」の限界を示す重要判例である。答案上では、第一審の無罪認定を控訴審が覆す際の事実取調べの必要性を論じる際、刑訴法400条但書の運用指針として引用する。事実取調べを欠いた逆転有罪判決は、刑訴法411条1号(判決に影響を及ぼすべき法令の違反)および「著しく正義に反する場合」に該当し得る強力な根拠となる。
事件番号: 平成29(あ)2073 / 裁判年月日: 令和2年1月23日 / 結論: 破棄差戻
第1審判決が公訴事実の存在を認めるに足りる証明がないとして,被告人に対し,無罪を言い渡した場合に,控訴審において第1審判決を破棄し,自ら何ら事実の取調べをすることなく,訴訟記録及び第1審裁判所において取り調べた証拠のみによって,直ちに公訴事実の存在を確定し有罪の判決をすることは,刑訴法400条ただし書の許さないところと…