一 被告人は所持の麻薬がもはや薬効のないものと信じていた旨の主張は、単に麻薬所持の犯意を否認するものに過ぎないものであつて、刑訴第三三五条第二項の主張に当らない。 二 原審において戸田弁護人に対し控訴趣意書提出最終日指定の通知をしなかつたのは、被告人に対して右通知をなした当時、同弁護人については未だ控訴審における弁護人選任届が提出されていなかつたためであつて、たとえ同弁護人が第一審弁護人として控訴申立をしたものであり、また控訴趣意書提出最終日に近く弁護人選任届を提出したからといつて、右通知をしなかつた原審の措置を非難するのは当らない。
一 刑訴第三三五条第二項の主張に当らない一事例。―所持の麻薬がもはや薬効のないものと信じていた旨の主張― 二 控訴趣意書提出最終日指定の通知は控訴の申立をした弁護人にもしなければならないか。 三 控訴趣意書提出最終日に近く選任届を提出した援護人に対して右通知を要するか。
刑訴法335条2項,刑訴法355条,刑訴規則236条
判旨
控訴審において弁護人が選任されていない時点で、被告人本人に対して控訴趣意書の提出最終日の通知がなされたのであれば、その後に選任された弁護人に対して重ねて通知を行う必要はない。
問題の所在(論点)
被告人に対して控訴趣意書提出最終日の通知がなされた際、弁護人が選任されていなかった場合、その後に選任された弁護人に対しても別途通知を行う必要があるか(刑事訴訟法376条、刑事訴訟規則236条)。
規範
刑事訴訟法及び刑事訴訟規則に基づき、裁判所が被告人に対して控訴趣意書提出最終日の通知を行った際、未だ弁護人が選任されていない場合には、その通知は適法である。その後、弁護人が選任されたとしても、裁判所は当該弁護人に対して改めて最終日の通知を行う義務を負うものではない。
重要事実
麻薬所持被告事件において、原審(控訴審)は被告人本人に対し控訴趣意書の提出最終日を指定して通知した。当時、第一審の弁護人はいたが、控訴審における弁護人選任届は未提出であった。その後、当該弁護人は提出最終日の前日に選任届を提出し、最終日当日に控訴趣意書を提出した。弁護人は、自分に対して最終日の通知がなされなかったことは訴訟手続の法令違反であると主張して上告した。
あてはめ
被告人に対して通知がなされた当時、控訴審における弁護人選任届は提出されていなかった。たとえその弁護人が第一審弁護人として控訴申し立てを行っていたとしても、選任届がない以上、裁判所がその者に対して通知を行う根拠はない。また、提出最終日近くに選任届が提出されたからといって、既に被告人本人への通知によって確定した期間に影響を及ぼすものではなく、弁護人への通知を欠いた措置に不当な点はない。補足意見によれば、事案が単純であり、第一審から関与していた弁護人にとって趣意書作成は容易であったという実態も考慮されている。
結論
原審の措置に違法はなく、弁護人に対して通知をしなかったことは上告理由(刑事訴訟法405条等)に当たらない。
実務上の射程
本判決は、控訴趣意書提出期限の通知対象について、選任届未提出の段階では被告人本人への通知で足りることを明確にしたものである。実務上、弁護人として選任届を遅滞なく提出することの重要性を示すとともに、通知の適法性を判断する基準時を「通知時点の選任状況」に置くべきことを示唆している。
事件番号: 昭和31(あ)3468 / 裁判年月日: 昭和32年3月14日 / 結論: 棄却
一 必要的弁護事件の控訴審において、私選弁護人は控訴趣意書を提出せず、被告人がただ量刑不当を主張した控訴趣意書を提出しているに過ぎない場合、公判期日五日前に被告人より疾病を理由として右期日の延期を申請し、裁判所もまた同期日二日前に被告人に対し勾留執行停止の決定をしていても、右公判期日に私選弁護人が出頭しないときは、在廷…