一 必要的弁護事件の控訴審において、私選弁護人は控訴趣意書を提出せず、被告人がただ量刑不当を主張した控訴趣意書を提出しているに過ぎない場合、公判期日五日前に被告人より疾病を理由として右期日の延期を申請し、裁判所もまた同期日二日前に被告人に対し勾留執行停止の決定をしていても、右公判期日に私選弁護人が出頭しないときは、在廷の弁護士を弁護人に国選し、同弁護人に被告人提出の前記控訴趣意書に基いて弁論させた上で結審し、判決をしても、憲法第三七条第三項に違反するものではない。 二 控訴審の判決に控訴趣意書記載の控訴趣意を引用した場合、その控訴趣意書を判決書に添付しなければならないものではない。
一 憲法第三七条第三項に違反しない事例 二 控訴審の判決に控訴趣意書記載の控訴趣意を引用する場合と控訴趣意書添付の要否。
憲法37条3項,刑訴法414条,刑訴法289条,刑訴法387条,刑訴法389条,刑訴規則246条
判旨
控訴審において、私選弁護人から控訴趣意書が提出されず被告人本人の提出のみであった場合でも、選任された国選弁護人が当該趣意書に基づき弁論を行ったのであれば、弁護権の侵害等の違法は認められない。
問題の所在(論点)
控訴審において、私選弁護人が控訴趣意書を提出せず、裁判所が選任した国選弁護人が被告人作成の趣意書に基づき弁論を行った手続が、弁護を受ける権利を侵害するなどの訴訟手続の法令違反に当たるか。
規範
控訴審における弁論は控訴趣意書に基づいてなされるべきものであり(刑事訴訟法388条参照)、被告人が提出した控訴趣意書であっても、弁護人がこれに基づいて弁論を行い、適正な手続が確保されている限り、弁護を受ける権利を侵害する等の違法は認められない。
重要事実
必要的弁護事件において、被告人は私選弁護人を選任したが、当該弁護人からは控訴趣意書が提出されず、被告人本人から量刑不当を理由とする控訴趣意書が提出された。裁判所は、公判期日に新たに国選弁護人を選任し、同弁護人は期日の変更を申請することなく、被告人提出の控訴趣意書に基づいて弁論を行った。被告人は、第一審で事実関係を認めて争っていなかった。
事件番号: 昭和28(あ)3703 / 裁判年月日: 昭和30年5月11日 / 結論: 棄却
一 被告人は所持の麻薬がもはや薬効のないものと信じていた旨の主張は、単に麻薬所持の犯意を否認するものに過ぎないものであつて、刑訴第三三五条第二項の主張に当らない。 二 原審において戸田弁護人に対し控訴趣意書提出最終日指定の通知をしなかつたのは、被告人に対して右通知をなした当時、同弁護人については未だ控訴審における弁護人…
あてはめ
本件は必要的弁護事件であるが、公判期日に国選弁護人が選任され、弁論が実施されており、必要的弁護の要請は形式上充足されている。また、被告人本人が作成した控訴趣意書は既に提出されており、国選弁護人は期日変更を求めることなく当該趣意書に基づいて弁論を行っている。被告人は一審で事実を認めており、趣意書の内容も量刑不当に限定されていたことから、弁護人が当該趣意書に基づいて弁論を行うことで、実質的な弁護活動として必要かつ十分な機会が与えられたといえる。
結論
被告人本人の提出した控訴趣意書に基づき弁護人が弁論を行った手続に違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
控訴審における弁護人の役割が「控訴趣意書に基づく弁論」であることを確認する事案。被告人本人が作成した書面であっても、弁護人がこれを援用・補足する形で弁論を行えば、弁護権保障の趣旨は没却されないとする実務的な運用を肯定している。
事件番号: 昭和29(あ)4168 / 裁判年月日: 昭和30年6月16日 / 結論: 棄却
必要的弁護事件について第一審が弁護人を附さないで開廷した違法があつても、控訴審において弁護人が量刑に関する点のみにつき控訴趣意書を提出し、公判廷においてこれに基いて弁論をした上情状に関する証拠を提出している場合には、刑訴第四一一条により原判決を破棄することを要しない。