一 原判決が「第一院判決挙示の証拠によると、同判示の偽造公文書は、いずれも、当該公文書の信用を害する危険がある程度の形式外観を具えていることが認められる」旨の判示並びに『第一審判決の判示各偽造外食券に「当該地方食糧配給公団名及び交付配給所名のなつ印」の要求されるのは、整理上交付配給所を明らかにするためで、これを欠くからといつて外食券でないという趣旨ではないと解すべき』旨の判示は、いずれも正当であると認められる。 二 原判決が、所論のごとく第一審判決が心神耗弱の主張に対し、判断をしなかつた違法を認めながら、所論のごとき理由をもつて判決に影響を及ぼさないとして弁護人の主張を排斥したこと、並びに、所論各高裁の判決がかかる違法は判決に影響を及ぼすこと明らかである旨判示したことは、所論のとおりである。従つて、原判決は、右各高等裁判所の判例に違反したものといわなければならない。しかし当裁判所第三小法廷は、原判決後昭和二八年五月一二日原判決と同趣旨に出た昭和二六年九月一三日の東京高等裁判所の判決を是認して、判断遺脱があつても常に必ずしも判決に影響を及ぼさない旨判示しているのである(判例集七巻五号一〇一一頁以下参照)。そして、当法廷においても右の判断を正当と考える。
一 公文書偽造罪の判示として正当と認められる一事例 二 偽造外食券の形式外観 三 心神耗弱の主張に対する判断の遺脱は絶対的控訴理由となるか 四 右判断遺脱は訴訟手続の法令違反として常に判決に影響するか
刑法155条,刑法39条2項,刑訴法44条,刑訴法335条1項,刑訴法335条2項,刑訴法378条4号,刑訴法379条
判旨
公文書偽造罪における偽造公文書は、一般人が真正なものと誤認するおそれがある程度の形式外観を具備していれば足りる。また、被告人の心神耗弱の主張に対する判断遺脱があっても、直ちに判決に影響を及ぼすべき違法とはならない。
問題の所在(論点)
1. 特定の印影を欠く文書であっても、公文書としての形式外観を備えているといえるか。 2. 必要的減軽事由(心神耗弱)の主張に対する判断遺脱は、常に判決に影響を及ぼす違法となるか。
規範
公文書偽造罪が成立するためには、作成された文書が、当該公文書としての信用を害する危険がある程度の形式外観を具えていることを要する。また、訴訟手続上の判断遺脱(刑訴法335条2項違反等)があったとしても、それが当然に判決に影響を及ぼすとは限らず、具体的な事案に応じて判決への影響の有無を判断すべきである。
重要事実
被告人らは、外食券を偽造して行使したとして公文書偽造等の罪に問われた。第一審判決が示した偽造外食券には、整理上必要とされる「地方食糧配給公団名及び交付配給所名のなつ印」が欠けていた。また、被告人B側は心神耗弱の主張をしたが、第一審判決はこれについて判断を示さなかった。原審(控訴審)は、なつ印を欠く外食券も偽造公文書にあたるとし、また心神耗弱の判断遺脱については違法を認めつつも判決に影響を及ぼさないとして控訴を棄却した。
あてはめ
1. 本件外食券について、なつ印はあくまで整理上の便宜のために要求されるものにすぎない。これがないからといって外食券としての性質を失うものではなく、一般の信用を害するに足りる形式外観を具備していると認められる。 2. 心神耗弱の主張に対する判断遺脱については、過去の高等裁判所の判例では常に判決に影響を及ぼす違法とされていたが、最高裁はこれを変更する。諸般の事情に照らし、判断遺脱があっても結論に変わりがないのであれば、必ずしも判決に影響を及ぼすとはいえない。
結論
被告人の上告を棄却する。本件偽造文書は公文書偽造罪の客体となり、また、原審が判断遺脱を認めつつ判決に影響しないとした判断は正当である。
実務上の射程
文書偽造罪における「偽造」の程度について、形式的外観の具備を要求する基準を明確にしたものである。また、刑訴法上の上告理由(判決に影響を及ぼすべき法令違反)の判断において、判断遺脱が必ずしも破棄理由にならないことを示しており、刑事訴訟の実務および答案作成における違法の重大性の論証に資する。
事件番号: 昭和31(あ)17 / 裁判年月日: 昭和31年7月5日 / 結論: 棄却
A法務社岸和田支局またはB地方法務新聞宇治山田支局各名義の各船舶登記証書を作成した場合においても、A法務社岸和田支局なる印の「社」およびB地方法務新聞宇治山田支局之印なる印の「新聞」という各文字の処を殊更に不鮮明に押捺し、各その形式外観によつて、一般人をしてA法務局岸和田支局またはB地方法務局宇治山田支局が権限により作…
事件番号: 昭和28(あ)4639 / 裁判年月日: 昭和29年2月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項が定める「公平な裁判所」とは、裁判官が被告人と個人的な利害関係を持つ等の不偏不党性を欠く状態にない組織を指し、当事者が主観的に不公平と感じるか否かによって決まるものではない。 第1 事案の概要:被告人が、原判決の量刑が不当であることを理由として、憲法37条1項の保障する「公平な裁判所…
事件番号: 昭和25(れ)1442 / 裁判年月日: 昭和26年8月28日 / 結論: 棄却
行使の目的を以て公文書の形式を偽り、一般人をして公務所若しくは公務員がその権限内において作成したものであると信ぜしめるに足る形式外観を具える文書を作成し、以て公文書の信用を害する危険を生ぜしめたときは他の記載事項欄が空白であつても公文書偽造罪が成立する。
事件番号: 昭和40(あ)12 / 裁判年月日: 昭和41年5月26日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】刑法155条1項の「公務所の署名」の有無については、文書の形式的外観から客観的に判断すべきであり、公務所の名称の記載等がない文書については、有印公文書としての成立を認めることはできない。 第1 事案の概要:被告人らは、公務上の文書である「昭和二五年度支出負担行為簿」に虚偽の記入をし、これを行使した…