原審において控訴趣意として、被告人の所為は、知人の事業援助のため、事業資金の用立又は投資をなしたもので、その利率は低率で、また殆ど無担保を以てし、資金の回収を確実にする措置を講じていないから、貸金業の型態を具備していない、旨の主張がなされた。原判決は右の主張に対して「必ずしも所論の型態を備えなければ貸金業に当らないものということはできない」と判示しているだけのことであつて、所論援用の大阪高裁の判例にいう貸金業としての型態を必要としないと判示しているわけではないから、所論判例違反の主張は理由がない。註。所論判例とは昭和二六年三月三〇日大阪高裁判決(高刑集四巻四号)を指す。
判例と相反する判断をしたことにあたらない一時列―貸金業等の取締に関する法律第二条という「貸金業」の意義
刑訴法405条3号,貸金業等の取締に関する法律2条
判旨
貸金業法(旧貸金業取締法等)における「貸金業」の該当性について、低利率や無担保といった特殊な形態であっても、直ちに業としての性格が否定されるものではない。また、刑法上の犯意の成立には、罪となるべき事実の認識があれば足り、違法性の認識までは必要としない。
問題の所在(論点)
1. 低利率・無担保・回収措置の不備といった事情がある場合に、なお「貸金業」に該当するといえるか。 2. 犯罪の成立(犯意)において、違法性の認識は必要か。
規範
1. 貸金業の該当性判断において、利率の長短や担保の有無、資金回収措置の厳格性といった外形的な型態のみに拘泥すべきではなく、実態に即して判断されるべきである。 2. 故意(犯意)の成立には、自己の行為が罪となるべき事実(構成要件的事実)に該当することの認識があれば足り、その行為が法に違反するという意識(違法性の認識)までは必要としない。
重要事実
被告人は、知人の事業援助を目的として事業資金の用立てや投資を行った。その際、利率は低率であり、かつ殆ど無担保で、資金回収を確実にするための措置も講じていなかった。弁護人は、このような形態は「貸金業」の型態を具備しておらず、また違法性の認識も欠けていたため、貸金業法違反等の罪は成立しないと主張して上告した。
事件番号: 昭和28(あ)601 / 裁判年月日: 昭和30年4月22日 / 結論: 棄却
貸金業等の取締に関する法律第二条にいう「貸金業」の意義は当裁判所の判例(昭和二六年(あ)第八五三号同二九年一一月二四日大法廷判決)のとおりであつて客観的に観察して貸金業としての形態を備えることは右「貸金業」の要件には属しない。
あてはめ
1. 貸金業の該否について、原判決が「必ずしも所論の型態を備えなければ貸金業に当たらないものということはできない」とした判断は正当である。知人への援助目的や低利・無担保という事情があっても、反復継続して貸し付けを行う実態があれば業性を肯定し得る。 2. 犯意について、本件において被告人が「罪となるべき事実」を認識している以上、それが法律により禁止されているという認識がなかったとしても、故意を阻却するものではない。
結論
被告人の行為は貸金業に該当し、また犯意も認められる。したがって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
貸金業法違反や無許可営業等の行政刑法事犯において、故意の対象を「事実の認識」に限定し、違法性の認識を不要とする判例法理を確認するものである。実務上、営業の「態様」が一般的でないことを理由とする業性の否定を制限する機能を持つ。
事件番号: 昭和28(あ)208 / 裁判年月日: 昭和29年8月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】貸金業等の取締に関する法律にいう「貸金業」とは、反復継続の意思をもって金銭の貸付け等を行えば足り、報酬や利益を得る意思、または現にこれを得た事実は必要ない。 第1 事案の概要:被告人が金銭の貸付けを行った行為が、貸金業等の取締に関する法律(当時)2条にいう「貸金業」に該当するかが争われた。被告人は…
事件番号: 昭和27(あ)348 / 裁判年月日: 昭和30年3月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】貸金業等の取締に関する法律にいう「貸金業」とは、反復継続の意思をもって金銭の貸付けまたは金銭の貸借の媒介をする行為を指し、営利の目的(報酬・利益を得る意思や事実)は要件ではない。また、無届貸金業者に対する罰則規定は憲法22条の職業の自由を侵害せず、合憲である。 第1 事案の概要:被告人が、貸金業等…
事件番号: 昭和30(あ)2101 / 裁判年月日: 昭和32年2月28日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】貸金業等の取締に関する法律2条1項にいう「貸金業」とは、反覆継続の意思をもって金銭の貸付等を行うことを指し、営利の目的や利益を得た事実は要件ではない。 第1 事案の概要:被告人が複数の相手に対し、期間を置いて、あるいは短期間に集中して金銭の貸付を行った。原審は、一部の貸付について交友関係に基づくも…
事件番号: 昭和30(あ)842 / 裁判年月日: 昭和30年7月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】貸金業等の取締に関する法律にいう「貸金業」とは、反復継続して行う意思のもとに金銭の貸し付けまたは金銭貸借の媒介行為を行うことを指し、営利の目的(利を図ること)は要件ではない。 第1 事案の概要:被告人は、貸金業等の取締に関する法律(当時)に基づき、金銭の貸し付け等を行っていた。被告人は、当該行為が…