判旨
同一事件における第一審と控訴審の手続は、継続する一つの『危険』の各部分にすぎないため、控訴審が自判しても憲法39条後段の二重処罰禁止には違反しない。
問題の所在(論点)
控訴審において第一審の判決を変更して自判することが、憲法39条後段が禁じる「重ねて刑事上の責任を問はれる」こと、すなわち二重の危険の禁止に抵触するか。
規範
憲法39条後段が禁止する二重の危険(double jeopardy)とは、同一の犯罪について重ねて刑事責任を問われることを指す。しかし、同一事件における訴訟手続はその開始から終結に至るまで一つの継続的状態と見るべきであり、第一審の手続と控訴審の手続は一つの『継続せる危険』の各部分を構成するにすぎない。
重要事実
被告人が貸金業等の取締に関する法律違反(無届け貸金業)に問われた事案。第一審判決は懲役1年(執行猶予3年)及び罰金10万円の有罪判決を言い渡した。これに対し、原審(控訴審)は事後審としての審査を行った上で、第一審が認定した犯罪事実の一部を削除して自ら判決(自判)を行い、懲役刑を科さず罰金10万円のみに処して被告人の利益に判決を変更した。被告人側は、控訴審による自判が二重処罰の禁止に触れると主張して上告した。
あてはめ
本件において、原審は第一審の手続に引き続き、同一事件の審理として判断を下している。これは手続の開始から終末に至るまでの一つの継続的な訴訟手続の範疇にある。また、原判決は第一審の認定事実の一部を罪とならないものとして除外した上、量刑においても懲役刑を取り消して罰金刑のみとするなど、被告人の利益方向に変更している。したがって、新たな「危険」を不当に創出したものとはいえず、一連の継続的な危険の範囲内にあると解される。
結論
控訴審における自判は、同一事件の継続する手続の一環であり、憲法39条後段には違反しない。
事件番号: 昭和33(あ)731 / 裁判年月日: 昭和36年3月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律の廃止に際し、附則で施行前の行為につき従前の例により罰則を適用すると規定することは、法の文理上明らかであり憲法39条に違反しない。また、同条にいう「既に無罪とされた行為」とは「既に無罪の裁判のあった行為」を指す。 第1 事案の概要:被告人は、旧法である「貸金業等の取締に関する法律」に違反する行…
実務上の射程
二重の危険に関する基本的理解(一継続的危険説)を示す判例である。刑訴法上の上訴制度が憲法違反でないことの根拠として論証に用いることができる。特に、控訴審が事後審的性格を有する場合であっても、一連の手続として憲法上許容されることを説明する際に有用である。
事件番号: 昭和27(あ)6352 / 裁判年月日: 昭和30年3月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】貸金業等の取締に関する法律による規制は、憲法22条1項の保障する職業選択の自由を不当に圧迫するものではなく、公共の福祉による正当な制限として合憲である。 第1 事案の概要:上告人は、貸金業等の取締に関する法律(旧法)の規定が、憲法22条が保障する職業選択の自由を不当に圧迫し違憲であると主張して上告…
事件番号: 昭和26(あ)2347 / 裁判年月日: 昭和30年3月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】貸金業等の取締に関する法律における無届貸金業者に対する罰則規定は、経済活動の自由の合理的制限として憲法に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が、貸金業等の取締に関する法律に基づく届出を行わずに貸金業を営んだとして、同法の罰則規定の適用を受けた事案。被告人は、当該罰則規定が憲法の保障する経済的自由…
事件番号: 昭和28(あ)601 / 裁判年月日: 昭和30年4月22日 / 結論: 棄却
貸金業等の取締に関する法律第二条にいう「貸金業」の意義は当裁判所の判例(昭和二六年(あ)第八五三号同二九年一一月二四日大法廷判決)のとおりであつて客観的に観察して貸金業としての形態を備えることは右「貸金業」の要件には属しない。
事件番号: 昭和30(あ)2101 / 裁判年月日: 昭和32年2月28日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】貸金業等の取締に関する法律2条1項にいう「貸金業」とは、反覆継続の意思をもって金銭の貸付等を行うことを指し、営利の目的や利益を得た事実は要件ではない。 第1 事案の概要:被告人が複数の相手に対し、期間を置いて、あるいは短期間に集中して金銭の貸付を行った。原審は、一部の貸付について交友関係に基づくも…