一 勾留状記載の被疑事実が公判請求書記載の公判事実中に包含されていないとの理由で勾留を取り消した場合にはその未決勾留日数を本刑に算入することはできない。 二 刑法第二一条にいわゆる未決勾留は当該事件に関する判決確定前の勾留であればその勾留が適法であると不法であるとを問わない。
一 未決勾留日数を本刑に算入し得ない一事例 二 刑法第二一条にいわゆる未決勾留の範囲
刑法21条,旧刑訴法255条,旧刑訴法291条,刑訴応急措置法8条5号,刑訴法256条,刑訴法204条
判旨
刑法21条に規定される「未決勾留」には、適法な勾留だけでなく、不法な勾留も含まれる。また、本刑に算入される未決勾留日数は、当該本案事件に係るものに限られ、別異の被疑事件につきなされた勾留日数を算入することはできない。
問題の所在(論点)
1. 全く別個の被疑事実に基づきなされた勾留日数を、別事件の本刑に算入することができるか。 2. 刑法21条の「未決勾留」に、不法な勾留が含まれるか。
規範
1. 刑法21条にいう「判決確定前ニ算入シタル勾留日数(未決勾留)」とは、判決確定前における身体拘束の事実を重視する趣旨であり、その勾留が適法であるか不法であるかを問わない。 2. もっとも、未決勾留日数の本刑算入が認められるためには、当該勾留が本案たる公訴事実と関連する事件に基づくものであることを要し、全く別異の被疑事実に基づく勾留日数を本刑に算入することはできない。
重要事実
被告人は暴力行為等処罰ニ関スル法律違反として起訴された。これに先立ち、被告人は傷害等被疑事件につき勾留されていたが、後に当該勾留は取り消された。被告人側は、この傷害等被疑事件における勾留が不法なものであったと主張し、当該未決勾留日数を本件(暴力行為等処罰法違反)の本刑に算入すべき、あるいは不法な勾留を理由に刑を減軽すべきであるとして上告した。なお、傷害等被疑事件の事実は、本件の公訴事実には全く包含されていなかった。
事件番号: 平成4(あ)1180 / 裁判年月日: 平成5年4月13日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】罰金刑の換刑処分としての労役場留置の執行と競合する未決勾留日数は、刑法21条に基づき本刑に算入することはできない。 第1 事案の概要:被告人は暴力行為等処罰法違反等で勾留中、別罪(傷害罪)により罰金30万円に処せられた。その後、当該罰金刑の換刑処分として平成4年9月21日から労役場留置の執行が開始…
あてはめ
1. 本件において取り消された勾留は、傷害等被疑事件につきなされたものである。この被疑事実は、本件の公訴事実(暴力行為等処罰法違反)の中に全然包含されていない別個の事実である。したがって、この別異の事件に係る勾留日数を本件の本刑に算入することはできない。 2. 仮に勾留が不法なものであったとしても、刑法21条の「未決勾留」には適法・不法を問わず含まれると解される。したがって、不法であることを理由に同条の適用を否定し、別途刑の減軽を求める被告人の主張は失当である。
結論
本件とは別異の事件に係る勾留日数を本刑に算入することはできない。また、刑法21条の未決勾留には不法な勾留も含まれるため、上告を棄却する。
実務上の射程
未決勾留日数の算入(刑法21条)の対象となる拘束の範囲を画定した判例である。答案上は、二重算入の禁止や別件勾留の効力を論ずる際、算入の対象が「当該事件」に限られることの根拠として利用できる。また、拘束の適法・不法を問わず算入を認める姿勢は、被告人の実質的な身体拘束という不利益を平等の観点から填補する趣旨と理解される。
事件番号: 昭和39(あ)1871 / 裁判年月日: 昭和40年1月22日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】確定刑の執行と未決勾留状の執行が競合している場合、実質的には一個の拘禁のみが存在するため、当該重複期間を未決勾留日数として本刑に算入することは許されない。 第1 事案の概要:被告人は、別件の傷害、傷害致死等の罪により懲役5年等の確定判決を受け、その刑の執行中であった。一方で、本件の刑事被告事件につ…
事件番号: 昭和53(あ)2328 / 裁判年月日: 昭和54年4月19日 / 結論: その他
原判決の違法が、罰金刑の換刑処分としての労役場留置の執行と競合する未決勾留日数の一部を裁量により本刑に算入した点にのみある場合においては、原判決中、未決勾留日数算入の部分のみを破棄し、その余の部分に対する上告を棄却すべきである。
事件番号: 昭和41(あ)1226 / 裁判年月日: 昭和41年10月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】勾留処分の違法は、それ自体に対して別途の救済方法によるべきであり、仮に勾留が違法に継続されたとしても、そのことから直ちに爾後の手続すべてが違法となるわけではない。 第1 事案の概要:被告人が勾留された状態で行われた刑事裁判の手続において、弁護人は勾留処分の違法性を主張し、それが憲法34条後段(不当…
事件番号: 昭和57(あ)254 / 裁判年月日: 昭和57年6月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】別件逮捕・勾留の違法性が主張されたとしても、原判決が証拠の信用性判断の過程でその目的の存否に言及したにとどまる場合には、捜査自体の憲法適合性を判断したものとはいえず、違憲を理由とする適法な上告理由にはあたらない。 第1 事案の概要:被告人が逮捕・勾留された際、その目的が不当であったとして弁護人が違…