所得税ほ脱事件において,原判決の有価証券売買益等の収益の帰属者の判断基準に関する判示に是認し難い点があるが,刑訴法411条を適用すべきものとは認められないとされた事例
所得税法12条,刑訴法411条
判旨
所得税法12条の文言は、租税法律主義に反するほど不明確ではない。所得の帰属者の判定にあたっては、形式的な名義のみならず、実質的な収益の享受主体を検討すべきである。
問題の所在(論点)
所得税法12条の規定が憲法31条、84条の定める明確性の原則に違反するか。また、実質所得者課税の原則に基づき、有価証券売買益等の収益の帰属者を判断する際の基準はいかにあるべきか。
規範
所得税法12条(実質所得者課税の原則)の文言は、日本国憲法31条、84条が求める明確性の原則に照らして、不明確であるとはいえない。また、所得の帰属者を判断するにあたっては、単に売買の意思決定を誰が行っていたかという一要素のみならず、当該収益の享受状況や支配従属関係等を総合的に考慮して判断すべきである。
重要事実
被告人が所得税法違反(脱税)に問われた事案において、有価証券の売買益、利子所得、配当所得などの収益が誰に帰属するかが争点となった。原審は、収益の帰属者の判断基準として「誰が売買の意思決定を行っていたか」が最も重要であると判示した。被告人側は、所得税法12条の規定が不明確であり憲法に違反すると主張して上告した。
あてはめ
所得税法12条の文言は、その趣旨や運用の実態に照らせば、納税者が予測困難なほど不明確とはいえない。原審が示した「意思決定の主体の重視」という基準は、一面的であり直ちに是認し難い点がある。しかし、本件において当該基準の不備が影響を及ぼすのは、利子・配当所得のうち被告人の父の生前分という極めて僅かな部分に限定される。したがって、認定されたほ脱税額の総額に対する実質的な相違をもたらすものではないため、原判決を破棄すべき理由には当たらない。
結論
上告棄却。所得税法12条は憲法に違反せず、原審の判断基準に一部不適切な点があるとしても、結論において実質的な影響がない限り、判決を維持することは正当である。
実務上の射程
所得税法12条の合憲性を確認した重要例である。実務上、所得の帰属判定において「意思決定主体」は重要な要素であるが、最高裁はそれのみを絶対的な基準とすることには慎重な姿勢を示している。答案上は、実質所得者課税の原則を適用する際、形式的名義に拘泥せず、意思決定権、経済的利益の享受、管理実態などを多角的に検討する姿勢を示すべきである。
事件番号: 昭和55(あ)1491 / 裁判年月日: 昭和59年3月16日 / 結論: 棄却
所得税法九条一項一一号イの規定は、憲法八四条に違反しない。