租税逋脱犯における逋脱所得の金額の認定にあたつては、いわゆる推計の方法、すなわち、財産・負債の増減、収入・支出の状況、取扱量、事業の規模、対比に値する同業者の業績等を示す間接的な資料から所得金額を推認して認定する方法も、その方法が経験則に照らして合理的である限りにおいては、当然に許容されるべきものであり、要は、それによつて合理的な疑いをさしはさむ余地のない程度の証明が得られれば足りる。
租税逋脱犯における逋脱所得の金額の認定にあたりいわゆる推計の方法を用いることの可否
所得税法156条,所得税法238条1項,刑訴法317条
判旨
租税逋脱犯における所得金額の認定において、経験則に照らして合理的であり、かつ合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の証明が得られる限り、推計の方法による認定も許容される。
問題の所在(論点)
刑事裁判における所得金額の認定において、直接証拠が乏しい場合に「推計の方法」を用いることが許されるか。また、許されるとしてもどの程度の合理性と立証の程度が求められるか。
規範
租税逋脱犯における逋脱所得の認定にあたっては、直接的な証拠によるほか、財産・負債の増減、収入・支出、事業規模等の間接的資料から所得を推論する「推計の方法」も許容される。その要件は、①推計の方法が経験則に照らして合理的であること、および②それによって合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の証明(刑事裁判における高度な立証)がなされることである。
重要事実
パチンコ店を経営する被告人が所得を隠した租税逋脱の事案において、売上及び仕入を記載した帳簿がほとんど存在せず、売上メモも破棄されていた。そこで検察側は、(イ)一部期間の判明している売上額を基礎に、仕入先の調査から得た景品等の仕入高指数を用いて2年分に引き延ばして売上額を算定し、(ロ)判明している出玉率や景品交換差益率から原価率を算出し、これらを組み合わせて所得金額を推計した。
あてはめ
本件では、帳簿の欠落や資料の破棄という状況下で、残存する工場ノート等の客観的資料や仕入先調査に基づく指数算出という手法が採られている。この方法は、判明している一部期間の数値から全体の数値を導き出すもので、統計的・論理的な整合性があり、経験則に照らし合理的といえる。また、算出された数値が被告人の自認する数値と近似している点は、推計結果の正確性を補強する。したがって、本件推計は合理的な疑いを超える証明をなし得ていると評価される。
結論
本件の推計の方法による所得金額の認定は相当であり、租税逋脱罪の成立を認めることができる。
実務上の射程
実務上、帳簿が不備な脱税事件において「推計課税」的手法を刑事裁判で用いる際のリーディングケースである。答案では、認定が困難な場合の例外的手法として位置づけつつ、刑事上の「合理的疑いを超える証明」を要する点に留意して論じる。行政上の推計課税よりも厳格な合理性が求められる文脈で引用すべき判例である。
事件番号: 昭和57(あ)1563 / 裁判年月日: 昭和60年11月25日 / 結論: 棄却
租税逋脱犯における逋脱所得金額を認定するに当たり、一定期間の期首と期末の財産状態を比較することを基本にしてその期間の利益すなわち所得の金額を算定するいわゆる財産増減法を用いることも許される。