刑訴規則222条の7第1項に定める手続を経ることなく刑法26条の2第2号により刑の執行猶予の言渡しを取り消すことの許否
刑法26条の2第2号,刑訴法349条の2,刑訴規則222条の7
判旨
保護観察中の遵守事項違反を理由とする執行猶予取消しの決定において、刑訴規則222条の7第1項所定の告知及び確認手続を経ないことは、対象者の防御権を侵害する違法な手続である。
問題の所在(論点)
刑法26条の2第2号(保護観察中の遵守事項違反)による執行猶予取消しの決定にあたり、刑訴規則222条の7第1項所定の手続を欠いたことが、決定を取消すべき違法となるか。
規範
刑訴規則222条の7第1項は、刑法26条の2第2号に基づく執行猶予取消請求を受けた裁判所に対し、対象者への口頭弁論請求権及び弁護人選任権の告知、並びに口頭弁論請求の有無の確認を義務付けている。この規定は、刑訴法349条の2が認める防御のための重要な権利を行使する機会を実効的に保障する趣旨である。したがって、同項に定める手続を経ることなく執行猶予の言渡しを取り消すことは、法が付与した権利を侵害するものとして許されない。
重要事実
覚せい剤取締法違反で保護観察付執行猶予判決を受けた申立人は、猶予期間中に複数の罪を犯して公訴提起された。検察官は、申立人が保護観察の遵守事項に違反し情状が重いとして、執行猶予の取消しを請求した。裁判所は申立人に求意見書を送達し、申立人から「異議なし」との回答を得たが、刑訴規則222条の7第1項に定める告知(口頭弁論請求権等の存在を知らせ、その行使の有無を確かめる手続)を一切行わずに取消決定をした。
あてはめ
本件では、水戸地裁が執行猶予取消決定を行うまでの間に、刑訴規則222条の7第1項が定める「口頭弁論を請求できる旨」及び「弁護人を選任できる旨」の告知、並びに「口頭弁論を請求するかどうかの確認」を行った形跡がない。申立人は「異議がない」旨の意見書を提出しているものの、防御権の本質である口頭弁論請求権等の存在を適切に知らされず、行使の機会を保障されないまま手続が進められたといえる。これは刑訴法が保障する重要な権利を侵害する重大な手続違反にあたる。
事件番号: 昭和52(し)28 / 裁判年月日: 昭和52年4月13日 / 結論: 棄却
一 刑法二六条の二第二号が憲法三九条に違反しないことは、昭和四一年(し)第五九号同四二年三月八日大法廷決定(刑集二一巻二号四二三頁)の趣旨に照らして明らかである。(昭和四九年(し)第一一〇号同年一二月二日第二小法廷決定と同旨) 二 刑の執行猶予言渡取消手続の抗告審が口頭弁論を開くことなく非公開の裁判をしても憲法三一条に…
結論
法定の手続を経ることなくなされた執行猶予取消決定及びこれを是認した抗告棄却決定は、いずれも違法であり取り消されるべきである。
実務上の射程
裁量的執行猶予の取消手続における適正手続(デュー・プロセス)の保障を明確にした判例である。答案上は、刑訴規則の不遵守が単なる事務的ミスに留まらず、法が保障する防御権の本質的侵害として決定の取消事由(違法)になることを論じる際に引用する。
事件番号: 平成1(し)10 / 裁判年月日: 平成元年2月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑の執行猶予言渡取消手続の抗告審において、口頭弁論を開くことなく書面審理によって裁判を行うことは、憲法31条、32条、37条1項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人に対し、刑の執行猶予言渡しの取消しがなされた。これに対し被告人が抗告を申し立てたところ、抗告審において口頭弁論が開かれることなく、…
事件番号: 昭和56(し)76 / 裁判年月日: 昭和56年6月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑の執行猶予の言渡しを取り消す決定の効力は、抗告提起期間の経過または抗告棄却決定の確定によって生じるため、特別抗告の係属中に猶予期間が満了したとしても、原決定に誤りがない限り、期間満了による刑の言渡しの失効(刑法27条)は妨げられない。 第1 事案の概要:執行猶予の言渡しを取り消す旨の原決定の告知…
事件番号: 昭和28(し)28 / 裁判年月日: 昭和28年5月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】最高裁判所への特別抗告は、刑事訴訟法405条に規定する事由がある場合に限り認められ、単なる法律解釈の争いは不適法である。 第1 事案の概要:抗告人が、刑事訴訟法349条(刑の執行猶予の言渡しの取消しの手続)の解釈を巡り不服を申し立て、最高裁判所に対し特別抗告を行った事案。抗告人は主張の中で憲法違反…
事件番号: 昭和47(し)57 / 裁判年月日: 昭和47年12月26日 / 結論: その他
特別送達の方法により、執行猶予取消決定についての即時抗告棄却決定の謄本を、被請求人に送達する手続をとつたところ、それが執行猶予期間内に送達されなかつた場合において、右特別送達を付郵便送達とすることにより、有効に執行猶予が取り消されたものとすることはできない。