一 憲法三七条違反の主張が「欠前提」とされた事例 二 公訴権濫用に関する憲法違反、判例違反の主張が不適法とされた事例 三 公選法一四二条一項、二四三条三号と憲法二一条 四 公選法二五二条一項と憲法三一条 五 刑訴法一〇〇条が憲法二一条二項に違反する旨の主張が不適法とされた事例 憲法三八条違反の主張が「欠前提」とされた事例
憲法前文,憲法14条,憲法15条,憲法21条,憲法31条,憲法37条,憲法38条,憲法43条
判旨
検察官の差別的意思等の公訴権を濫用し公訴を無効ならしめるような事由が認められない限り、公訴提起は適法である。また、被告人が黙秘した経過を供述の信憑性判断の資料とすることは、直ちに不利益な事実認定として憲法38条に違反するものではない。
問題の所在(論点)
1. 特定の政治活動の妨害や差別的意思に基づく公訴提起は、公訴権の濫用として公訴棄却(刑訴法338条4号等)の対象となるか。 2. 被告人が公判で黙秘した経過を供述の信憑性判断の資料とすることは、憲法38条1項の自己負罪拒否特権に反するか。
規範
1. 公訴権の濫用:検察官の裁量権の逸脱が公訴の提起を違法・無効ならしめるためには、特定の政治団体等の活動を妨害する目的や差別的意思に基づくなど、公訴権の著しい濫用と認められる特段の事情を要する。 2. 黙秘権(憲法38条):被告人が公判で黙秘した事実そのものを直接の不利益証拠として認定することは許されないが、被告人が供述に至るまでの経過を、その供述自体の信憑性を判断するための一資料として斟酌することは許容される。
重要事実
被告人は公職選挙法違反(文書掲示・頒布等の制限違反)に問われた。弁護側は、本件公訴が日本共産党の選挙活動を妨害する目的で、検察官の差別的意思に基づき行われたものであり、公訴権の濫用として無効であると主張した。また、第一審で検察官の質問に対し黙秘した事実が、不当に不利益な事実認定に用いられたとして、憲法38条違反等を理由に上告した。
あてはめ
1. 公訴権濫用について:記録上、本件公訴が日本共産党の活動妨害を目的としていた、あるいは検察官の差別意思に基づいていたと認めるに足りる証拠は存在しない。したがって、公訴の提起を違法・無効ならしめる事由は認められない。 2. 黙秘権について:原判決は、被告人が第一審で黙秘したことをもって直ちに不利益な事実認定(有罪の証拠とすること)をしたわけではない。単に、その後被告人が供述を行うに至るまでの経過を、その供述内容がどれほど信用できるかという信憑性判断の一資料として考慮したにすぎないため、憲法38条に違反しない。
結論
本件公訴提起は有効であり、また黙秘の経過を信憑性判断に用いることも合憲である。したがって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
公訴権濫用論において、検察官の意図(差別意思等)を理由に無効を主張する場合の厳格な立証ハードルを示す。また、刑事実務における「黙秘権の行使」と「供述の信憑性」の関係について、沈黙そのものを有罪の証拠にすることは禁じつつも、供述態度の一環として信憑性評価に用いることの限界を示しており、公判維持・事実認定の局面で重要となる。
事件番号: 昭和58(あ)137 / 裁判年月日: 昭和58年9月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】検察官の公訴権の行使が、特定の政治的信条に基づく差別的なものである等、憲法14条や44条に違反する特段の事情がない限り、公訴提起の判断は検察官の裁量に委ねられる。 第1 事案の概要:被告人らに対し、公職選挙法違反等(詳細は判決文からは不明)に係る公訴が提起された。これに対し、被告人側は、検察官によ…