否認していることを理由に保釈請求却下をしたことが憲法三八条一項に違反するとの主張が欠前提とされた事例
憲法38条1項
判旨
保釈却下事由である「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」の認定において、被告人の否認という態度そのものではなく、供述内容の食い違い等の客観的状況から関係者への働きかけの蓋然性を推認することは、憲法38条1項に違反しない。
問題の所在(論点)
被告人が犯行を否認している場合に、関係者の供述との食い違いを理由に「罪証隠滅のおそれ」を認定して保釈を却下することは、自己に不利益な供述を強要されない権利(憲法38条1項)を侵害するか。
規範
刑事訴訟法89条4号にいう「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」の判断にあたっては、被告人の供述内容と他の関係者の供述内容との間に食い違いがある場合、それのみをもって否認を理由とした不利益な取り扱い(黙秘権侵害)とするのではなく、被告人が証拠に働きかけを行う客観的な蓋然性が認められるか否かによって判断すべきである。
重要事実
被告人が公訴事実を否認している状況において、下級審(原決定)は、被告人の供述内容と事件関係者の供述内容との間に多くの食い違いが存在することを認定した。この事実に基づき、被告人に保釈を許可した場合には、被告人が自己の供述に合わせるよう関係者に働きかけを行う(罪証隠滅の)おそれがあると判断し、保釈を許可しなかった。
あてはめ
本件において原決定は、単に被告人が罪を認めていない(否認している)という態度のみをとらえて罪証隠滅のおそれを認定したわけではない。被告人の供述と関係者の供述との間に具体的な「くいちがい」が存在するという客観的事実を前提として、被告人が関係者に働きかける蓋然性を認定している。これは供述内容の矛盾に基づく事理にかなった推認であり、不当に自白を強要するものとはいえない。
事件番号: 昭和45(し)30 / 裁判年月日: 昭和45年6月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が自白している場合であっても、事案の性質や証拠関係に照らして共犯者や被害者に対する罪証隠滅のおそれがあると認められるときは、保釈を却下しても憲法38条1項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は一応自白していたが、裁判所は、事案の性質と証拠関係を検討した結果、なお共犯者間や被害者との間で罪…
結論
被告人が否認していることを理由に罪証隠滅のおそれを認定したものではないため、憲法38条1項違反の前提を欠き、本件抗告は棄却される。
実務上の射程
権利保釈の除外事由(刑訴法89条4号)の認定手法に関する重要判例である。答案上は、否認の態度そのものを不利益に評価するのではなく、供述の矛盾という具体的状況から「働きかけの必要性・可能性」を導き出す構成をとる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和46(し)22 / 裁判年月日: 昭和46年4月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】勾留の必要性判断において罪証隠滅のおそれがあるとする原決定の認定は適法であり、実質的な事実誤認や法令違反の主張は特別抗告の理由に当たらない。 第1 事案の概要:被告人が勾留決定に対し抗告したところ、原審(高等裁判所)は「罪証隠滅のおそれ」があるとしてこれを支持した。これに対し被告人が、憲法31条(…
事件番号: 平成6(し)65 / 裁判年月日: 平成6年4月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保釈の判断において、被告人の供述態度を罪証隠滅のおそれや裁量保釈の可否を判断する一資料として考慮することは、黙秘権を保障した憲法38条1項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が保釈を請求した際、裁判所がその供述態度を罪証隠滅のおそれの有無や裁量保釈の可否を判断する材料とした。これに対し、被告人…
事件番号: 昭和25(し)39 / 裁判年月日: 昭和25年12月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保釈却下の理由として被告人が犯意を否認している点を挙げることは、直ちに自己に不利益な供述を強要するものとは認められず、憲法38条1項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人Aは詐欺被告事件において終始犯意を否認していた。裁判所は、被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとして保釈請求を…
事件番号: 平成22(し)288 / 裁判年月日: 平成22年7月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁量保釈の適否について、公訴事実とされた犯罪事実の性質等に照らし不適切な点があり得るとしても、著しく正義に反すると認められない限りは原決定を維持すべきである。 第1 事案の概要:被告人が勾留されている公訴事実について、原決定が裁量により保釈を許可したところ、検察官側が犯罪事実の性質等を理由に不服を…