判旨
被告人が自白している場合であっても、事案の性質や証拠関係に照らして共犯者や被害者に対する罪証隠滅のおそれがあると認められるときは、保釈を却下しても憲法38条1項に違反しない。
問題の所在(論点)
被告人が自白している場合において、罪証隠滅のおそれを理由に保釈を却下することは、勾留によって自白を強要するものとして憲法38条1項に違反するか。
規範
保釈の要否を判断するにあたっては、被告人の自白の有無にかかわらず、事案の性質および関係証拠に照らし、共犯者相互間または被害者に対する関係において罪証を隠滅するおそれの有無を個別具体的に検討すべきである。かかる考慮に基づく保釈却下は、直ちに自白を強要するものとはいえず、憲法38条1項に反しない。
重要事実
被告人は一応自白していたが、裁判所は、事案の性質と証拠関係を検討した結果、なお共犯者間や被害者との間で罪証隠滅が行われる具体的おそれがあると判断し、保釈請求を却下した。これに対し弁護人は、自白している被告人を拘禁し続けることは自白の強要にあたり、黙秘権を保障する憲法38条1項に違反すると主張して特別抗告を申し立てた。
あてはめ
本件では、被告人が形式的に自白している事実はあるものの、事案の性質および証拠関係を総合すれば、共犯者との口裏合わせや被害者への働きかけによる罪証隠滅のおそれが否定できない。このような客観的な罪証隠滅の蓋然性に基づいて勾留を継続することは、被告人に更なる自白を迫る不当な心理的強制を加えるものとは認められない。
結論
罪証隠滅のおそれがあることを理由とする保釈却下は相当であり、憲法38条1項に違反しない。
実務上の射程
事件番号: 昭和52(し)27 / 裁判年月日: 昭和52年4月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保釈却下事由である「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」の認定において、被告人の否認という態度そのものではなく、供述内容の食い違い等の客観的状況から関係者への働きかけの蓋然性を推認することは、憲法38条1項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が公訴事実を否認している状況において、下級審(原…
権利保釈の除外事由(刑訴法89条4号)の判断において、自白の存在が直ちに罪証隠滅のおそれを消滅させるものではないことを示す。実務上、自白事件であっても共犯者が否認している場合や、証人への接触の可能性がある場合には、依然として保釈却下が可能であることを支える根拠となる。
事件番号: 平成6(し)65 / 裁判年月日: 平成6年4月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保釈の判断において、被告人の供述態度を罪証隠滅のおそれや裁量保釈の可否を判断する一資料として考慮することは、黙秘権を保障した憲法38条1項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が保釈を請求した際、裁判所がその供述態度を罪証隠滅のおそれの有無や裁量保釈の可否を判断する材料とした。これに対し、被告人…
事件番号: 昭和46(し)22 / 裁判年月日: 昭和46年4月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】勾留の必要性判断において罪証隠滅のおそれがあるとする原決定の認定は適法であり、実質的な事実誤認や法令違反の主張は特別抗告の理由に当たらない。 第1 事案の概要:被告人が勾留決定に対し抗告したところ、原審(高等裁判所)は「罪証隠滅のおそれ」があるとしてこれを支持した。これに対し被告人が、憲法31条(…
事件番号: 昭和25(し)39 / 裁判年月日: 昭和25年12月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保釈却下の理由として被告人が犯意を否認している点を挙げることは、直ちに自己に不利益な供述を強要するものとは認められず、憲法38条1項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人Aは詐欺被告事件において終始犯意を否認していた。裁判所は、被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとして保釈請求を…
事件番号: 昭和24新(つ)9 / 裁判年月日: 昭和24年12月20日 / 結論: 棄却
被告人は本年五月一七日懲役二年の刑に處する判決を受けたのであるから、その後に於ては刑訴第三四四條により、刑訴第八九條の適用はなく、保釋の請求があつても必ずこれを許さなければならないというとはない。裁判所は適當と認めた場合に限り職權を以て保釋を許せば足りる。従つて横濱地裁横須賀支部が保釋請求を却下したことは違法ではない。…