捜査官が被疑者を午前九時から午後一一時まで取調べても、調べを続けてほしい旨の申出が被疑者からなされたような事情がある場合は、任意の取調の範囲を超えたものということはできない。
任意の取調の範囲を超えていないとされた事例
刑訴法197条,刑訴法198条,憲法31条,憲法38条1項,憲法38条2項
判旨
任意出頭した被疑者に対する長時間の取調べであっても、被疑者の自由な意思に基づいて継続され、威圧的態様がない等の事情があれば、任意捜査の限界を超えない。
問題の所在(論点)
任意出頭した被疑者に対し、夜間に及ぶ14時間近い長時間取調べを行うことが、刑訴法197条1項、198条1項にいう任意捜査の限界を逸脱しないか。
規範
任意捜査(刑訴法197条1項)としての取調べは、強制にわたらない限り許容される。その適法性は、事案の軽重、被疑者の態様、取調べの時間・場所、方法、被疑者の自由な意思の有無等を総合考慮し、社会通念上相当と認められる範囲内にあるか否かによって判断される。
重要事実
被告人は警察署に任意出頭を求められ、午前9時過ぎから午後11時頃まで取調べを受けた。被告人は当初から容疑を認め、平穏な態度で応じていた。途中で帰宅を申し出ることはなく、午後6時頃に取調官から打切りを打診された際、自ら「今日中に終わるなら続けてほしい」と申し出た。取調べ中に食事の支給を受け、健康状態も良好であった。
あてはめ
取調べが午前9時過ぎから午後11時頃までという長時間に及んでいる点は慎重な検討を要する。しかし、被告人は終始素直に事実を認め、威圧的な態様もなく平穏に取調べが行われていた。また、疲労や病気の訴えもなく食事も支給されており、何より被告人自らが取調べの継続を希望して自由な意思でこれに応じている。これらの事実を総合すれば、本件取調べは被告人の身体の自由を不当に拘束する強制にわたるものとはいえず、社会通念上相当な範囲に留まる。
結論
本件取調べは、刑訴法197条、198条で許容される任意の取調べの範囲を超えた違法なものとはいえない。
実務上の射程
長時間取調べの適法性が争点となる事案で活用する。特に、被告人側の「自発的な継続希望」や「平穏な態度」といった主観的・態様的事実が、時間の長さという客観的不利益を相殺する要素として働くことを示す射程を持つ。
事件番号: 昭和60(あ)826 / 裁判年月日: 平成元年7月4日 / 結論: 棄却
午後一一時過ぎに任意同行の上翌日午後九時二五分ころまで続けられた被疑者に対する取調べは、特段の事情のない限り、容易に是認できないが、取調べが本人の積極的な承諾を得て参考人からの事情聴取として開始されていること、一応の自白があつた後も取調べが続けられたのは重大事犯の枢要部分に関する供述に虚偽が含まれていると判断されたため…
事件番号: 昭和52(あ)1706 / 裁判年月日: 昭和53年10月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】呼気検査が強制にわたるものではなく、かつ派出所への同行が任意捜査の域を超えない場合には、当該捜査は適法である。 第1 事案の概要:被告人Aに対し、警察官が酒気帯び運転の疑いで呼気検査を実施した。また、その際、被告人を派出所まで同行させた。弁護人は、これらの行為が強制捜査に該当し、憲法31条および3…