一、道交法の報告義務の規定と憲法三八条 二、量刑上前科が過度に考慮されたものではないとして憲法三九条違反の主張が欠前提とされた事例
憲法38条,憲法39条
判旨
道路交通法72条1項後段及び119条1項10号の規定は、憲法38条1項に違反しない。交通事故における警察官等への報告義務は、自己に不利益な供述を強要するものではないとする判例の趣旨が改めて確認された。
問題の所在(論点)
道路交通法72条1項後段および119条1項10号に基づく、交通事故の際における警察官への報告義務の課刑が、自己負罪拒否特権を定めた憲法38条1項に違反するか。
規範
憲法38条1項は、何人も自己に不利益な供述を強要されない旨を規定するが、道路交通法上の報告義務は、交通事故の態様等を速やかに把握し、円滑な交通の確保と危険の防止を図る行政上の目的から課されるものである。したがって、刑事責任を追及することを目的としたものではないため、同憲法の保障する自己負罪拒否特権には違反しない(最大判昭37.5.2参照)。
重要事実
被告人は道路交通法違反等に問われ、同法72条1項後段(警察官等への報告義務)及び119条1項10号(罰則)の規定により処罰された。被告人側は、当該規定が自己に不利な事実の告白を強制するものであり、憲法38条1項に違反すると主張して上告した。また、量刑判断において前科が過度に考慮されているとして憲法39条違反も併せて主張した。
あてはめ
最高裁判所は、既往の大法廷判決(昭和37年5月2日)の趣旨を引用し、当該規定が憲法38条に違反しないことは明らかであると判断した。また、量刑における前科の考慮についても、原判決の内容に照らして不当な過度さは認められないとし、憲法39条違反の主張も前提を欠くと退けた。
事件番号: 昭和51(あ)255 / 裁判年月日: 昭和51年5月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項が規定する交通事故の報告義務(前段)および警察官への申告義務(後段)は、自己に不利益な供述を強要するものではなく、憲法38条1項に違反しない。 第1 事案の概要:上告人は、道路交通法違反(ひき逃げ・報告義務違反等)に問われた刑事被告人である。上告人は、同法72条1項前段(救護義…
結論
本件道路交通法の規定は憲法38条1項に違反せず、合憲である。上告を棄却する。
実務上の射程
道路交通法上の報告義務が憲法38条1項に違反しないという確立した判例法理を再確認するものである。答案上では、行政上の目的(交通安全の確保)を達成するために必要な最小限の義務であり、刑事罰の追及を主眼とするものではないという点から合憲性を論証する際の根拠として用いる。
事件番号: 昭和62(あ)151 / 裁判年月日: 昭和62年5月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項後段に規定する報告義務は、憲法38条1項の自己負罪拒否特権に違反しない。 第1 事案の概要:上告人は、道路交通法違反(報告義務違反等)の罪で起訴された。弁護人は、道路交通法72条1項後段が定める交通事故発生時の警察官への報告義務が、憲法38条1項が保障する自己負罪拒否特権に抵触…
事件番号: 昭和53(あ)437 / 裁判年月日: 昭和53年9月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項後段の報告義務は、憲法38条1項の自己負罪拒否特権に違反しない。報告内容は事故の事実確認等の応急措置に必要な範囲に限られ、刑事責任を直接追及するものではないためである。 第1 事案の概要:被告人は道路交通法違反(ひき逃げ・報告義務違反等)に問われた。弁護人は、交通事故を起こした…
事件番号: 昭和43(あ)2617 / 裁判年月日: 昭和44年4月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項後段に定められた運転者の報告義務は、憲法38条1項の自己負罪拒否特権に違反しない。 第1 事案の概要:上告人は、道路交通法違反の罪に問われ、同法72条1項後段が定める交通事故の際の運転者による報告義務が憲法38条1項に違反すると主張して上告した。 第2 問題の所在(論点):道路…