略式命令を不相当とし、その事件の通常裁判手続をも担当した裁判官が、刑訴法二五六条六項の趣旨に反する措置をとつたことをもつて、直ちに不公平な裁判をする虞れがあるとは認められないとされた事例
刑訴法21条1項,刑訴法256条6項
判旨
起訴状一本主義の趣旨に反する異例の措置がとられた場合であっても、直ちに当該裁判官に不公平な裁判をするおそれがあるとは認められない。
問題の所在(論点)
裁判官が起訴状一本主義の趣旨に反する措置をとったことが、刑事訴訟法21条1項に規定する「裁判の公平を欠く虞があるとき」に該当するか。
規範
刑事訴訟法20条各号の除斥事由に該当しない裁判官につき、同法21条1項の「裁判の公平を欠く虞があるとき」にあたるか否かは、裁判官が事件に対して偏見や予断を抱き、不公平な裁判をする客観的な事情があるか否かによって判断すべきである。起訴状一本主義(256条6項)に抵触する手続上の瑕疵があったとしても、その一事をもって直ちに不公平な裁判をするおそれがあると断定することはできない。
重要事実
被告事件の審理において、第一審裁判所の裁判官が、起訴状一本主義(刑訴法256条6項)の趣旨に反するような、証拠書類をあらかじめ閲読する等の異例の措置をとった。これに対し、弁護人が当該裁判官には不公平な裁判をするおそれがあるとして、忌避の申し立てを行った事案である。
あてはめ
本件裁判官がとった措置は、余罪や前科等、裁判官に予断を生じさせるおそれのある書類を予断排除の原則に反して受理・閲読したものであり、同法256条6項の趣旨に反する異例のものであると評価される。しかし、手続上の違法ないし不適切さが認められるからといって、そのことから直ちに裁判官が被告人に対して不当な偏見を抱き、具体的・客観的に不公平な裁判をする蓋然性が生じたとまではいえない。
事件番号: 昭和47(し)51 / 裁判年月日: 昭和47年11月16日 / 結論: 棄却
本件付審判請求事件の審理を担当する裁判所が示した審理方式(判文参照)は、裁量の許される範囲を逸脱している疑いを免れないけれども、そのことはただちに右裁判所を構成する裁判官らを忌避する事由とはなりえない。
結論
本件裁判官の措置は刑訴法256条6項の趣旨に反する異例のものであるが、これをもって直ちに裁判官が不公平な裁判をするおそれがあるとは認められないため、忌避の申し立ては却下されるべきである。
実務上の射程
起訴状一本主義違反と忌避事由の関係を示した重要判例である。答案上は、起訴状に余事記載がある場合の処置(公訴棄却)とは別に、裁判官の適格性の問題として論じる際に参照する。手続違反=不公平な裁判とはならないという厳格な枠組みを示す際に有用である。
事件番号: 昭和47(し)50 / 裁判年月日: 昭和47年11月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判官の忌避事由である「不公平な裁判をする虞れ」(刑訴法21条)は、審理方式に過剰な便宜供与等の行き過ぎた点があるとしても、そのことから直ちに肯定されるものではない。 第1 事案の概要:付審判請求事件において、裁判所は、弁護士でない請求人らに対しても記録の閲覧謄写を認め、証拠調べに際して請求人でな…
事件番号: 昭和50(し)12 / 裁判年月日: 昭和50年4月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共犯者の事件の審理に関与し、当該事件において被告人の供述調書を証拠採用した裁判官が、後に被告人自身の事件の審理を担当することは、憲法37条1項が保障する不公平な裁判をするおそれがあるものとはいえない。 第1 事案の概要:被告人の共犯者について行われた刑事事件の審理に関与した裁判官が、当該共犯者の事…
事件番号: 昭和31(し)34 / 裁判年月日: 昭和31年10月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が刑事訴訟法312条2項に基づき予備的訴因の追加を命ずることは、審理が相当程度進捗した段階で行われる限り、直ちに不公平な裁判をするおそれがあるとは認められず、裁判官の忌避事由(刑訴法21条1項)を構成しない。 第1 事案の概要:傷害致死等被告事件の第一審において、裁判所(合議体)が主たる訴因…
事件番号: 昭和31(し)10 / 裁判年月日: 昭和31年6月5日 / 結論: 棄却
地方裁判所の一人の裁判官が刑訴第二四条によりした忌避申立却下の裁判に対し地方裁判所に即時抗告の申立があつた場合には、同裁判所は刑訴第四二六条第一項前段により不適法として右抗告を棄却すべきものである。