本件付審判請求事件の審理を担当する裁判所が示した審理方式(判文参照)は、裁量の許される範囲を逸脱している疑いを免れないけれども、そのことはただちに右裁判所を構成する裁判官らを忌避する事由とはなりえない。
付審判請求事件の審理方式と忌避事由
刑訴法21条,刑訴法262条,刑訴法265条,刑訴規則173条
判旨
裁判官の忌避事由(刑訴法21条)は、原則として審理過程外の要因に基づくべきであり、審理方式が著しく違法不当であっても、それが審理過程外の要因(予断等)を示す特段の事情がない限り、忌避事由には当たらない。
問題の所在(論点)
裁判官が示した審理方式の内容が著しく違法・不当である場合、刑訴法21条1項の「不公平な裁判をする虞があるとき」に該当し、忌避事由となるか。
規範
裁判官の忌避制度は、事件の当事者との特別の関係や手続外での予断形成など、審理過程に属さない要因により公平な裁判が期待しがたい場合に、裁判の公正と信頼を確保するものである。したがって、手続内での審理方法や態度は原則として忌避事由とならない。特定の審理方式が著しく違法不当であっても、それが専ら審理過程外の要因(予断偏見等)の存在を示すものと認められる「特段の事情」が存しない限り、忌避事由とはならない。
重要事実
付審判請求事件を担当する合議部裁判官らが、請求人(告訴人側)に対し、検察官送付全記録の閲覧謄写、証人尋問への立会いおよび発問を許可する等の極めて異例な審理方式を示した。被疑者側は、この審理方式が請求人と被疑者を対立当事者のように扱うものであり、かつ内容に不揃いがある(請求人側に有利な傾斜がある)として、不公平な裁判をするおそれがあることを理由に裁判官を忌避した。
事件番号: 昭和47(し)50 / 裁判年月日: 昭和47年11月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判官の忌避事由である「不公平な裁判をする虞れ」(刑訴法21条)は、審理方式に過剰な便宜供与等の行き過ぎた点があるとしても、そのことから直ちに肯定されるものではない。 第1 事案の概要:付審判請求事件において、裁判所は、弁護士でない請求人らに対しても記録の閲覧謄写を認め、証拠調べに際して請求人でな…
あてはめ
本件の審理方式は、密行性が重視される付審判請求手続(職権手続)の性格に反し、裁量権を逸脱した疑いがある。また、請求人と被疑者の取扱いに不揃いがあり、真相究明に傾斜を来すおそれも否定できない。しかし、かかる方式が示されたこと自体から直ちに予断等の審理過程外の要因を断定することはできない。本件では、当該方式が専ら審理過程外の要因に基づき「ことさらに案出された」と解すべき特段の事情までは認められず、暫定的な運用や書面作成上の不備である可能性も排除できない。したがって、忌避事由には当たらない。
結論
本件審理方式に裁量逸脱の疑いがあるとしても、それが審理過程外の予断等を示す特段の事情がない限り、忌避事由には当たらない。本件抗告を棄却する。
実務上の射程
裁判官の訴訟指揮や審理の進め方に不満がある場合、原則として忌避ではなく異議(刑訴法309条)や上訴(または抗告)で争うべきであることを示す。忌避が認められるハードルが極めて高いことを論証する際に引用すべき判例である。
事件番号: 昭和44(し)53 / 裁判年月日: 昭和44年9月11日 / 結論: その他
一 刑訴法二六二条以下に規定するいわゆる付審判請求事件における被疑者は、同法二一条一項により、裁判官忌避の申立をすることができる。 二 忌避申立の対象とされた裁判官が、当該事件の審理を担当する裁判所の合議体の構成を離れたときは、特別抗告の論旨につき判断するまでもなく、同裁判官に対する忌避申立を却下した第一審決定およびこ…
事件番号: 昭和50(し)51 / 裁判年月日: 昭和50年7月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】起訴状一本主義の趣旨に反する異例の措置がとられた場合であっても、直ちに当該裁判官に不公平な裁判をするおそれがあるとは認められない。 第1 事案の概要:被告事件の審理において、第一審裁判所の裁判官が、起訴状一本主義(刑訴法256条6項)の趣旨に反するような、証拠書類をあらかじめ閲読する等の異例の措置…
事件番号: 昭和46(し)57 / 裁判年月日: 昭和46年7月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共犯者の事件の審理に関与した裁判官が、別の共犯者の事件を担当することは、憲法37条1項が保障する不公平な裁判をするおそれがあるものとはいえず、違憲ではない。 第1 事案の概要:被告人は、自身の事件の審理を担当する裁判官が、以前に当該事件と共犯関係にある他の被告人の事件の審理に関与していたことを理由…
事件番号: 昭和31(し)34 / 裁判年月日: 昭和31年10月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が刑事訴訟法312条2項に基づき予備的訴因の追加を命ずることは、審理が相当程度進捗した段階で行われる限り、直ちに不公平な裁判をするおそれがあるとは認められず、裁判官の忌避事由(刑訴法21条1項)を構成しない。 第1 事案の概要:傷害致死等被告事件の第一審において、裁判所(合議体)が主たる訴因…