被告人は被害者とは顔見知りの間柄に過ぎず、夜間自己の運転する自動車に帰宅途上の同女を同乗させ人通りの少ない場所を運転進行中やにわに接吻したいとの欲望にかられ、車内で極力抵抗する同女の右手をつかみ、左肩を押えつけるなどした上、同女の口に接吻したもので、被害者が被告人から接吻されてもよいと認める態度に出たとか、被告人において同女の同意を得られる事情があつたとかいう事実は認められない場合、被告人の接吻行為は強制猥褻行為にあたる。
接吻が強制猥褻にあたるとされた事例
刑法176条
判旨
暴行又は脅迫を用いて行われる接吻行為は、刑法(昭和50年当時)の強制わいせつ罪における「わいせつな行為」に該当する。
問題の所在(論点)
暴行又は脅迫を手段として行われた「接吻行為」が、刑法上の強制わいせつ罪(現行刑法176条参照)における「わいせつな行為」に該当するか。
規範
強制わいせつ罪(現・強制性交等罪等)における「わいせつな行為」とは、徒に性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道徳観念に反する行為をいう(最判昭26・1・25参照)。接吻行為がこれに該当するかは、行為の態様、周囲の状況等を総合して判断される。
重要事実
被告人が、暴行又は脅迫を用いて、被害者の意思に反して接吻を行った。原審は、これらの事実関係に基づき、被告人の行為を強制わいせつ罪に該当すると判断した。
あてはめ
判決文には詳細な事実関係の記載がないが、原判決の確定した事実によれば、被告人の行為は「接吻」という身体的接触を伴うものであり、これが暴行・脅迫を手段として強制された点において、性的な自由を侵害し、普通人の性的羞恥心を害するものと評価される。したがって、強制わいせつ罪の構成要件を充足すると認められる。
結論
被告人の接吻行為を強制わいせつ罪に該当するとした原判断は正当である。
実務上の射程
接吻という、それ自体では性交等に及ばない行為であっても、強制的に行われる場合には強制わいせつ罪を構成し得ることを示した事例である。答案上は、わいせつ概念の客観的基準(性的羞恥心の侵害)に基づき、行為の強制度合いや身体部位を考慮して「わいせつな行為」の該当性を論じる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和44(あ)649 / 裁判年月日: 昭和44年7月25日 / 結論: 棄却
一三才未満の者に対し、その反抗を著しく困難にさせる程度の脅迫を用いてわいせつの行為をした場合には、刑法一七六条の前段と後段との区別なく右法条に該当する一罪が成立する。