行為の公然性について何ら明示するところなく、単に被告人甲乙両名はS方二畳の間において、M女に対し暴行を加え、それぞれ猥褻の行為をなしたとの強制猥褻の訴因に対し、訴因の変更または追加の手続をなすことなく、飲食店S方において右S及び同店の客T外二名の面前で被告人甲乙両名はM女に対しそれぞれ公然猥褻の行為をなしたとの事実を認定した有罪判決は、審判の請求を受けない事件について判決をした違法があるものといわなければならない。
強制猥褻の訴因に対し、訴因変更手続を経ることなく公然猥褻の事実を認定した判決と刑訴第三七八条第三号後段
刑法176条,刑法174条,刑訴法256条,刑訴法312条,刑訴法378条3号
判旨
裁判所は、公訴状に記載された訴因(強制猥褻罪)に公然性の事実が含まれず、訴因変更手続もなされていない場合、公然猥褻罪として処罰することはできず、審判の請求を受けない事件について判決をした違法がある。
問題の所在(論点)
起訴状に強制猥褻罪の事実のみが記載されている場合に、裁判所が訴因変更手続を経ることなく、公然性の事実を補充して公然猥褻罪として処断することが許されるか。審判の請求を受けない事件についての判決に該当するかが問題となる。
規範
裁判所の審判対象は、検察官の指定した訴因に限定される。起訴状に記載されていない犯罪構成要件的要素(例えば公然猥褻罪における公然性)を含む事実を認定し、または訴因変更手続を経ることなく別罪として処断することは、不告不理の原則に反し、審判の請求を受けない事件について判決をした違法(刑事訴訟法378条3号参照)を構成する。
重要事実
被告人両名は、被害者の肩に手を掛ける等の暴行を加え、家屋内に追い詰めて馬乗りになり猥褻な行為をしたとして、強制猥褻罪(刑法176条)の訴因で起訴された。第一審は無罪としたが、控訴審は、飲食店主や客の面前で抱きついた等の事実を認定し、公訴状に記載のない「公然性」を認めて、訴因変更手続を経ることなく自ら公然猥褻罪(刑法174条)を適用し、被告人らを罰金刑に処した。
あてはめ
本件起訴状には、街路での歩行中や家屋内での暴行・猥褻行為は記載されているが、飲食店主や客の面前という「公然性」を認めるに足りる事実は一切記載されていない。また、罪名及び罰条も強制猥褻罪とされており、公然猥褻の点は訴因として構成されていない。記録上も訴因変更の手続がなされた形跡はないため、原判決が認定した公然猥褻の事実は審判の対象外である。強制猥褻の訴因について犯罪の証明がないのであれば、本来は刑訴法336条により無罪を言い渡すべきであったといえる。
結論
原判決には審判の請求を受けない事件について判決をした違法があり、判決に影響を及ぼすべきことは明らかである。したがって、原判決を破棄し、差戻しを免れない。
実務上の射程
訴因の特定及び審判対象の確定に関するリーディングケースの一つ。訴因に含まれない構成要件的要素を補充して別罪で処断することは許されないことを示している。答案上は、訴因変更手続の要否(特に義務的訴因変更)や、裁判所の審判範囲を論じる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和29(あ)211 / 裁判年月日: 昭和29年6月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白の任意性に疑いがある場合であっても、記録上その自白が任意になされたものでないと認めるべき証跡が存しないときは、自白の証拠能力を否定することはできない。 第1 事案の概要:被告人が自白の任意性を争い、また自白が唯一の証拠である旨を主張して上告した事案。原審判決においては、被告人の自白以外…
事件番号: 昭和50(あ)2212 / 裁判年月日: 昭和53年7月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本決定は、被告人及び弁護人による上告趣意が憲法違反を主張するものであっても、その実質が単なる法令違反や事実誤認にすぎない場合には、刑訴法405条の上告理由には当たらないと判示したものである。 第1 事案の概要:被告人および弁護人が、憲法31条違反、法令違反、事実誤認、量刑不当を理由として上告を申し…