控訴審が事実誤認の有無を審査するにあたり、証拠調手続を経ていない証拠をその資料に供したのは違法たるを免れないが、右証拠は第一審判決の挙示する証拠には含まれておらず、また、その挙示する証拠によれば所論の事実を優に認定するに足りるから、右違法は判決に影響を及ぼすものではない。
証拠調手続を経ない証拠を判断の資料にした場合の判決への影響
刑訴法411条1号
判旨
控訴審が事実誤認の有無を審査する際、証拠調べを経ていない証拠を資料とすることは違法であるが、第一審の挙示証拠により事実認定が十分に可能であれば、当該違法は判決に影響を及ぼさない。
問題の所在(論点)
控訴審が事実誤認の審査において、証拠調べを経ていない証拠を資料とした場合の適法性、および当該違法が判決に影響を及ぼすか(刑事訴訟法382条、379条、410条1項参照)。
規範
刑事訴訟法上、控訴審が事実誤認の有無を審査するにあたり、適法な証拠調べ手続を経ていない証拠を判断資料に供することは違法である。もっとも、当該違法な証拠を除外しても、第一審判決が挙示する他の適法な証拠によって事実を認定するに足りる場合には、当該手続上の違法は判決に影響を及ぼすものとはいえない。
重要事実
被告人が事実誤認を理由に控訴した事案において、原審(控訴審)は事実誤認の有無を審査する際、第一審で証拠調べが行われておらず、かつ控訴審自身も証拠調べ手続を経ていない複数の証拠を判断の資料とした。弁護人は、このような証拠の採用は法令違反であるとして上告した。
あてはめ
原審が証拠調べを経ていない証拠を事実誤認の審査資料とした点は、手続上、違法たるを免れない。しかし、これらの証拠は第一審判決が事案の核心的な事実を認定するために挙示した証拠群には含まれていない。また、第一審が挙示した他の適法な証拠のみによっても、所論の事実は優に認定することができる。したがって、原審の証拠採用の誤りは、結論として判決の結果を左右するものではないと評価される。
結論
証拠調べを経ていない証拠を資料とした原審の手続は違法であるが、判決に影響を及ぼさないため、上告は棄却される。
実務上の射程
控訴審における事実誤認審査(382条)の限界を示す。実務上は、控訴審が独自に新証拠を考慮する際は393条1項に基づく証拠調べが必須であることを確認しつつ、答案上では「判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反(410条1項)」の有無を判断する際の論理として、他の証拠による補完可能性を指摘する形式で用いる。
事件番号: 昭和31(あ)3562 / 裁判年月日: 昭和32年6月13日 / 結論: 棄却
第一審判決が懲役刑の執行猶予を言い渡した場合に、控訴裁判所が何ら事実の取調をしないで、第一審判決を量刑不当として破棄し、みずから訴訟記録および第一審で取り調べた証拠のみによつて、懲役刑(実刑)の言渡をしても刑訴第四〇〇条但書に違反しない。(下飯坂裁判官も多数意見に賛成)