引用判例は所論の趣旨の判断を示したものではないとして「不適切」とされた事例
判旨
刑事訴訟法405条に基づく上告において、判例違反を理由とする主張が前提を欠き、その他の主張が単なる事実誤認の主張にすぎない場合は、上告理由に当たらない。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法405条の上告理由において、(1)引用判例が主張の前提となる判断を示していない場合に「判例違反」が認められるか、および(2)「事実誤認」の主張が適法な上告理由となり得るかが問題となる。
規範
刑事訴訟法405条の上告理由として認められるためには、憲法違反、憲法解釈の誤り、または最高裁判所の判例(もしくは最高裁判所がない場合には大審院等の判例)と相反する判断があることを示さなければならない。判例違反を主張する者が、引用する判例が当該趣旨の判断を示したものではない場合には前提を欠くものとされ、また、単なる事実誤認の主張は同条所定の上告理由には該当しない。
重要事実
上告人は、原判決には判例違反および事実誤認があるとして本件上告を提起した。上告人は特定の判例を引用してその趣旨に反すると主張したが、裁判所は、引用された判例が上告人の主張するような判断を示したものではないと認定した。その他の主張内容は、事実関係の誤りを指摘するものであった。
あてはめ
まず、上告人が主張する判例違反の点については、所論が引用する判例を精査したところ、当該判例は上告人が主張するような判断を示した事実が認められない。したがって、判例違反の前提自体が欠如しているといえる。次に、その他の主張内容は事実関係の存否を争う「事実誤認」の主張にとどまり、同条が限定的に定める憲法違反や判例違反といった法的瑕疵の主張には該当しないと判断される。
結論
本件上告は刑訴法405条の上告理由に当たらないため、同法414条、386条1項3号により棄却される。
実務上の射程
実務上、上告審は法律審であり、405条各号に掲げられた事由のみが適法な上告理由となることを再確認するものである。判例違反を主張する際は、射程が及ぶ適切な判例を特定する必要があり、単なる事実関係の不服は上告審の対象外となることを示す典型的な決定例である。
事件番号: 昭和57(あ)690 / 裁判年月日: 昭和57年9月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法405条に基づく上告理由としての判例違反を主張する場合、単に言渡裁判所及び言渡日を指摘するだけでは「判例の具体的な摘示」があったとは認められない。 第1 事案の概要:被告人が上告を提起した際、弁護人は上告趣意において判例違反を主張した。しかし、その主張の中で、参照すべき判例については言渡…