一 第一審公判廷において証人として尋問され、被告人側に反対尋問の機会が充分に与えられたときは、右公判廷において同証人が裁判官の面前における供述と異なる供述をしたため、刑訴法三二一条一項一号により、同法二二七条一項、二二八条二項に基づき被告人側に立会の機会を与えずに作成した証人尋問調書を証拠として採用しても、憲法三七条二項に違反すると主張して上告することはできない。 二 刑訴法二二七条一項が引用する同法二二三条一項にいわゆる被疑者とは、当該被疑者をいい、これと必要的共犯の関係にある他の者又は勾留中の他の者を含まない(当裁判所昭和三五年(あ)第一六九五号同三六年二月二三日第一小法廷判決、刑集一五巻二号三九六頁参照)。
一 刑訴法三二一条一項一号により同法二二七条一項、二二八条二項に基づく証人尋問調書を証拠として採用することと憲法三七条二項 二 必要的共犯者又は勾留中の他の被疑者に対する刑訴法二二七条による証人尋問の適否
刑訴法228条2項,刑訴法321条1項1号,刑訴法227条1項,刑訴法223条1項
判旨
裁判官の面前にて作成された証人尋問調書を証拠とすることは、公判廷において被告人側に十分な反対尋問の機会が与えられている限り、憲法37条2項に違反しない。
問題の所在(論点)
1. 裁判官の面前で作成された供述録取書面(刑訴法227条の尋問調書)を刑訴法321条1項1号により証拠とすることが、憲法37条2項(証人尋問権・反対尋問権)に違反するか。 2. 刑訴法223条1項の「被疑者」に、共犯者や勾留中の他者が含まれるか。
規範
憲法37条2項は、公判廷外の供述を録取した書面を証拠とすることを絶対的に禁じているわけではない。公判廷において当該供述者に対し反対尋問をする機会を被告人側に十分に与える限り、伝聞書面を証拠とすることは同条項に違反しない。また、刑訴法223条1項にいう「被疑者」とは当該被疑者本人のみを指し、共犯者等は含まれない。
重要事実
第一審は、裁判官の面前で作成されたAの証人尋問調書(刑訴法227条)について、Aが第一審公判廷において当該調書の内容と異なる供述をしたため、検察官の請求に基づき、刑訴法321条1項1号を適用して証拠として採用した。これに対し被告人側は、供述の際に反対尋問の機会がない書面の採用は憲法37条2項等に違反し、また捜査手続にも違法があるとして上告した。
あてはめ
1. 本件において、供述者Aは第一審の公判廷に証人として出頭しており、被告人側にはAに対し反対尋問を行う機会が十分に与えられていたことが明白である。したがって、公判廷での供述と異なる内容を含む以前の調書を証拠として採用しても、被告人の防御権は実質的に保障されており、違憲の瑕疵はない。 2. 刑訴法223条1項の「被疑者」の定義については、必要的共犯の関係にある他の者や勾留中の他の者を含まないと解するのが相当であるため、手続上の法令違反も認められない。
結論
被告人側に十分な反対尋問の機会が与えられている以上、刑訴法321条1項1号により証人尋問調書を証拠採用することは憲法37条2項に違反しない。また、共犯者は同法223条1項の被疑者に当たらない。
実務上の射程
伝聞例外(刑訴法321条1項1号)の合憲性を支える実質的根拠が「公判廷における反対尋問の機会」にあることを明示する際に引用する。また、取調べ等の被疑者側の権利の帰属主体を検討する際の解釈指針としても機能する。
事件番号: 昭和30(あ)88 / 裁判年月日: 昭和30年6月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】検察官面前調書の証拠能力を認める刑事訴訟法321条1項2号後段は、憲法37条2項の証人尋問権(反対尋問権)に違反しない。 第1 事案の概要:被告人AおよびBの公判において、検察官面前調書が証拠として採用された。これに対し、弁護人は刑事訴訟法321条1項2号後段の規定が、被告人の反対尋問権を保障した…