検察官の冒頭陳述が終了した直後で、いまだ実質審理に入らない段階において、裁判所が、検察官に対し、弁護人主張にかかる警察当局の違法かつ過剰警備による違法捜査手続を理由とする公訴権濫用の事実を明らかにするため必要であるとして弁護人に警察官作成の警備実施状況報告書を閲覧させることを命ずることは、訴訟指揮権行使の適正かつ公平な範囲を逸脱したもので許されない。
公訴権濫用の主張に関し証拠開示命令が許されないとして取り消された事例
刑訴法294条,刑訴法299条1項,刑訴法338条4号
判旨
裁判所が検察官に対し証拠開示を命じるには、事案の性質や審理の状況等に照らし、当該証拠が被告人の防御のため特に重要であると認められることが必要である。検察官の冒頭陳述直後の段階で、違法捜査を理由とする公訴棄却の主張を準備するために警備実施状況報告書の閲覧を命じたことは、訴訟指揮権の範囲を逸脱し違法である。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法上の明文の規定がない段階において、裁判所が訴訟指揮権に基づき証拠開示を命じるための要件、および検察官の冒頭陳述終了直後という段階で特定の内部報告書の閲覧を命じることの是非が問題となる。
規範
裁判所は、訴訟指揮権に基づき検察官に対し手持ち証拠の開示を命じることができるが、その行使は適正かつ公平な範囲内に限定される。証拠開示命令を発するには、事案の性質、審理の状況等諸般の事情を考慮した上で、当該証拠が「被告人の防御のため特に重要である」と認められることを要する。
重要事実
公務執行妨害等被告事件において、弁護人は「警察による違法・過剰な警備実施に基づく公訴提起であり、刑訴法338条4号により無効である」と主張した。弁護人は、この違法捜査を立証する準備のため、警察官作成の「警備実施状況報告書」等の閲覧を申し立てた。第一審裁判所は、検察官の冒頭陳述終了直後の段階で、訴訟指揮権に基づき右報告書3通の閲覧を命じた。これに対し検察官が異議を申し立てたが棄却されたため、特別抗告がなされた。
事件番号: 昭和43(し)109 / 裁判年月日: 昭和44年4月25日 / 結論: その他
裁判所が、検察官申請証人の採用決定前に、同証人の反対尋問のため必要であるとの理由で、検察官に対し、その所持する当該証人の検察官に対する供述調書を弁護人に閲覧させることを命じた場合、特段の事情のないかぎり、その閲覧の時期を主尋問終了後反対尋問前と指定したとしても、その閲覧が被告人の防禦のため特に重要であるということはでき…
あてはめ
本件では、検察官の冒頭陳述が終了し、被告人側の意見陳述が行われたに過ぎない極めて早い段階である。警察の過剰警備による公訴権濫用が主張されているとしても、実体審理に先立って直ちに当該報告書を閲覧させることが、真実、被告人の防御のために特に重要であるとは認められない。したがって、このような段階での開示命令は、訴訟指揮権行使の適正かつ公平な範囲を逸脱したものといえる。
結論
検察官に対し、実体審理に先立って弁護人に証拠の閲覧を命じた原決定は違法であり、取り消されるべきである。
実務上の射程
本判決は、公判前整理手続導入前の証拠開示命令に関するリーディングケースであるが、現行法下でも証拠開示の必要性(防御のための重要性)を判断する際の指標となる。特に、実体審理の進捗状況に応じた開示の時期的な相当性や、公訴棄却の主張などの予備的・付随的申立てとの関係での開示の必要性を検討する際に参照すべきである。
事件番号: 昭和43(し)68 / 裁判年月日: 昭和44年4月25日 / 結論: 棄却
裁判所は、証拠調の段階に入つた後、弁護人から、具体的必要性を示して、一定の証拠を弁護人に閲覧させるよう検察官に命ぜられたい旨の申出がなされた場合、事案の性質、審理の状況、閲覧を求める証拠の種類および内容、閲覧の時期、程度および方法、その他諸般の事情を勘案し、その閲覧が被告人の防禦のため特に重要であり、かつこれにより罪証…
事件番号: 昭和26(し)95 / 裁判年月日: 昭和28年12月3日 / 結論: 棄却
本件特別抗告理由について。しかし、所論判例違反の主張は、所論にいわゆる高等裁判所の判例なるものを具体的に摘示していないから、適法な特別抗告理由の主張として採ることができない。
事件番号: 昭和51(し)22 / 裁判年月日: 昭和51年3月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】訴訟手続に関し判決前にした決定に対する異議申立てを棄却する旨の決定は、刑事訴訟法433条にいう「この法律により不服を申し立てることができない決定」には当たらない。したがって、かかる決定に対して同条に基づく特別抗告を申し立てることは不適法である。 第1 事案の概要:弁護人は、公判期日において、検察官…
事件番号: 昭和28(し)70 / 裁判年月日: 昭和29年6月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判官による証人尋問(刑訴法227条)において、被疑者に弁護人が選任されている場合であっても、捜査に支障を生ずるおそれがあると認められるときは、弁護人を立ち会わせないことができる。 第1 事案の概要:裁判官が刑訴法227条に基づき証人Bを尋問するにあたり、被疑者に弁護人が選任されていることを認識し…