争議行為に際して行なわれた犯罪構成要件該当行為について刑法上違法性阻却事由の有無を判断するにあたつては、その行為が争議行為に際して行なわれたものであるという事実をも含めて、当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かが判定されなければならない(最高裁昭和四三年(あ)第八三七号同四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻三号四一八頁参照)のであつて、かかる見地から本件をみると、被告人両名を含む本件ピケ隊によるピケツテイングは、原判決判示の事実関係に徴すると、法秩序全体の立場から許容されるものとはいい難く、刑法上違法性を欠くものではないから、これについて威力業務妨害罪の成立を認め、これを鎮圧排除しようとした警察官の実力行使に対してなされた被告人両名の本件暴行が公務執行妨害罪を構成するとした原判決の判断は、結論において正当である。
公共企業体等職員の労働争議の際のピケツテイングが違法であるとしてこれを鎮圧排除しようとした警察官の実力行使に対してなされた暴行が公務執行妨害罪を構成するとされた事例
刑法95条1項,刑法234条,刑法35条
判旨
争議行為としてのピケッティングが刑法上の違法性を阻却するか否かは、当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮し、法秩序全体の見地から許容されるかによって判断すべきである。本件ピケは威力業務妨害罪を構成し、これを排除する警察官への暴行は公務執行妨害罪が成立する。
問題の所在(論点)
労働争議の一環として行われたピケッティング等の行為について、刑法上の違法性が阻却されるための判断基準、およびこれに関連して行われた警察官への抵抗が公務執行妨害罪を構成するか。
規範
争議行為に際して行われた犯罪構成要件該当行為について、刑法上の違法性阻却事由の有無を判断するにあたっては、その行為が争議行為の一環であるという事実を含め、当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが「法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否か」によって判定されるべきである。
重要事実
被告人らを含むピケ隊は、労働争議に際してピケッティングを実施した。このピケッティングは、威力を用いて他人の業務を妨害する態様(威力業務妨害罪の構成要件に該当する行為)であった。これに対し、現場の警察官が当該ピケを鎮圧・排除しようと実力行使に出たところ、被告人らは当該警察官に対して暴行を加えた(公務執行妨害罪の構成要件に該当)。
あてはめ
本件ピケッティングは、原判決が認定した事実関係によれば、単なる平和的な説得の範囲を超え、威力を用いて業務を妨害するものであった。このような具体的状況に照らせば、当該行為は「法秩序全体の立場から許容されるもの」とは言い難い。したがって、ピケッティング自体の違法性は阻却されず、これを取り締まる警察官の職務執行は適法な公務となる。その公務に対してなされた被告人らの暴行は、正当な争議権の行使として保護される範囲を逸脱している。
結論
本件ピケッティングは刑法上の違法性を欠くものではなく、威力業務妨害罪が成立する。したがって、これを排除しようとした警察官の公務は適法であり、被告人らの暴行について公務執行妨害罪の成立を認めた原判決は正当である。
実務上の射程
争議行為の正当性判断において、旧来の全農林警職法事件判決等の流れを汲み「法秩序全体の観点」という包括的な判断枠組みを示したものである。答案上は、労働刑法における違法性阻却の一般的基準として引用し、具体的態様の過剰性(実力行使や強圧的態様の有無)を「諸般の事情」としてあてはめる際に用いる。
事件番号: 昭和43(あ)1684 / 裁判年月日: 昭和45年7月21日 / 結論: 棄却
公共企業体等労働関係法一七条一項に違反してなされた争議行為についても、労働組合法一条二項の適用がある。