一 わいせつ文書の販売を処罰することは、憲法二一条に違反しない。 二 わいせつとは、その内容が徒らに性欲を興奮または刺激せしめ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するという三要素を具備するものをいう。
一 わいせつ文書の販売を処罰することと憲法二一条 二 わいせつの意義
刑法175条,憲法21条
判旨
刑法175条の「わいせつ」とは、徒に性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいい、この解釈は憲法21条に反しない。
問題の所在(論点)
刑法175条の「わいせつ」概念の定義(いわゆるチャタレイ事件判決の三要素の妥当性)および、当該規定と憲法21条との適合性が問題となった。
規範
刑法175条にいう「わいせつ」な表現物とは、①徒に性欲を興奮または刺激せしめ、かつ、②普通人の正常な性的羞恥心を害し、③善良な性的道義観念に反する、という三要素をすべて具備するものを指す。
重要事実
被告人は、書籍「孤愁の影」下巻を頒布等した行為が刑法175条(わいせつ物頒布罪等)に問われた。被告人側は、同書が「わいせつ」には当たらないと主張し、また、同条の規定や判例のわいせつ概念の解釈が、表現の自由を保障する憲法21条や思想・良心の自由を保障する憲法19条に違反すると主張して上告した。
あてはめ
最高裁は、原判決が引用した「三要素(性欲の興奮・刺激、性的羞恥心の侵害、性的道義観念への反抗)」を具備するものをわいせつとする判断枠組みを「正当」と認めた。その上で、このように刑法175条を解釈・運用することは、表現の自由の制限として公共の福祉にかなうものであり、憲法21条に違反しないとした。本件の具体的な事実関係については、被告人が主張する「わいせつ性に欠ける」という点は原判決の認定に沿わない事実を前提とするものとして退けられた。
結論
刑法175条は憲法21条に違反せず、同条の「わいせつ」概念について従来の三要素を維持した。本件書籍はわいせつ物にあたるとした原判決の判断を維持し、上告を棄却した。
実務上の射程
チャタレイ事件大法廷判決(昭32.3.13)が示した「わいせつ」の三要素定義を小法廷でも再確認したものである。答案上では、わいせつ物頒布罪の構成要件を解釈する際の確定的規範として、これら三要素を列挙する根拠として用いる。
事件番号: 昭和48(あ)2593 / 裁判年月日: 昭和49年4月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法21条1項が保障する表現の自由は絶対無制限ではなく、性生活の秩序や健全な風俗の維持という公共の福祉による制限を受けるため、刑法175条のわいせつ物頒布罪等の規定は合憲である。 第1 事案の概要:被告人が、3人1組の性戯や性交の場面等を、性器の形状や動き、行為者の言動などについて具体的、詳細かつ…
事件番号: 昭和41(あ)1205 / 裁判年月日: 昭和42年10月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条にいう「わいせつ」な文書とは、徒らに性欲を興奮又は刺激させ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。文書の内容が性行為の叙述に終始し、表現の具体性や露骨性の程度にかかわらず、右要件を充足する場合にはわいせつ文書に該当する。 第1 事案の概要:被告人が…
事件番号: 昭和58(あ)1546 / 裁判年月日: 昭和59年9月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条のわいせつ物頒布等の規定は、憲法13条、21条、31条に違反せず、また、他人の権利侵害や未成年者への配慮を欠く場合に限定して解釈しなくとも合憲である。 第1 事案の概要:被告人が刑法175条の罪に問われた事案において、被告人および弁護人は、同条が個人の幸福追求権(憲法13条)や表現の自…
事件番号: 昭和57(あ)165 / 裁判年月日: 昭和59年12月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条の「わいせつ」概念は罪刑法定主義に反せず、同条による処罰は表現の自由等を保障する憲法21条、19条、31条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が、刑法175条に基づきわいせつ文書の出版等の罪に問われた事案。弁護人は、同条が読書の自由(憲法21条)や思想の自由(同19条)を侵害し、適…