原判決には被告人の自首を認めなかつた誤りがあるが破棄しなければ著しく正義に反するとはいえないとされた事例
刑法42条1項,刑訴法411条
判旨
自首が成立する事案においてその認定を誤った判決があっても、諸般の事情を考慮して宣告刑が不当に重いと認められない限り、判決の破棄は要しない。
問題の所在(論点)
自首が成立する事実があるにもかかわらず、原判決が自首を認めなかった場合に、直ちに原判決を破棄すべき事由(刑訴法411条等)となるか。
規範
刑法42条1項の自首の成否に関する判断に誤りがあったとしても、刑訴法411条2号(刑の量刑が著しく不当)または同条1号(判決に影響を及ぼすべき法令の違反)に基づき、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められない場合には、上告を棄却すべきである。
重要事実
被告人は業務上過失傷害および道路交通法違反(救護義務違反)の罪に問われた。被告人は事件後、捜査機関に対して自ら犯罪事実を申告したが、原判決は自首の成立を認めなかった。弁護人は、この自首の認定漏れが法令違反や量刑不当にあたるとして上告した。
あてはめ
記録に照らせば、本件各罪について被告人の自首があったと認めるのが相当である。原判決が自首を認めなかった点には法令解釈の誤り、あるいは事実誤認が存在する。しかし、第一審の宣告刑を改めて検討すると、仮に自首による刑の減軽(任意的減軽)を考慮に入れたとしても、その刑が重すぎるとは認められない。したがって、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは言えない。
事件番号: 昭和58(あ)1777 / 裁判年月日: 昭和60年2月8日 / 結論: 棄却
運転を誤つて自動車を海中に転落させ同乗者を負傷させる事故を起こした者が、警察官の取調べに対し、いつたんは、同乗者がいなかつたと嘘をいい、業務上過失傷害罪の嫌疑が自己に及ぶことを妨げたという事情があつたとしても、その後、右罪が官に発覚する前に、これを自ら進んで警察官に申告したときは、自首が成立する。
結論
被告人に自首が成立すると認められる場合であっても、宣告刑が正当な範囲内であれば、原判決を維持し上告を棄却するのが相当である。
実務上の射程
自首の成否が争点となる答案において、自首の要件(捜査機関に発覚する前の申告)を充たす事実がある場合でも、量刑の妥当性の観点から結論が左右される実務上の判断枠組みを示している。司法試験上は、自首の認定を論じた後、量刑上の不利益の有無を検討する際の補足的な視点として活用できる。
事件番号: 昭和47(あ)2639 / 裁判年月日: 昭和48年3月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】検察官控訴に基づき、量刑不当を理由に第一審判決を破棄して自判することは、同一の犯罪について重ねて刑事上の責任を問うものではないため、憲法39条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人に対し第一審判決が言い渡された後、検察官が量刑不当を理由に控訴を申し立てた。原審(控訴審)は、この検察官控訴を理由が…
事件番号: 昭和45(あ)1222 / 裁判年月日: 昭和45年10月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決に法令適用の誤りがある場合であっても、犯行の態様その他諸般の事情を総合し、当該違法が「著しく正義に反する」と認められないときは、上告棄却を維持すべきである。 第1 事案の概要:被告人は業務上過失傷害罪(第一)および道路交通法違反の各罪(第二ないし第四)を犯した。第一審は、道交法70条の安全運転…
事件番号: 昭和50(あ)1355 / 裁判年月日: 昭和50年9月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の供述が任意になされたものであるか否かは、取調べの状況や諸般の事情を総合的に考慮して判断されるべきであり、本件においては原審の任意性肯定の判断を維持した。 第1 事案の概要:被告人が行った供述(自白)の任意性について争われた事案。弁護人は、当該供述の任意性に疑いがあるとして違憲及び判例違反を…
事件番号: 昭和49(あ)479 / 裁判年月日: 昭和49年4月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】原審において主張及び判断を経ていない事項に関する憲法違反の主張や、原審の認定に沿わない事実関係を前提とする判例違反の主張は、刑事訴訟法405条の上告理由に当たらない。 第1 事案の概要:上告人は、原判決に対して上告を申し立てた。その上告趣意において、第一に、原審では主張も判断もされていなかった事項…