運転を誤つて自動車を海中に転落させ同乗者を負傷させる事故を起こした者が、警察官の取調べに対し、いつたんは、同乗者がいなかつたと嘘をいい、業務上過失傷害罪の嫌疑が自己に及ぶことを妨げたという事情があつたとしても、その後、右罪が官に発覚する前に、これを自ら進んで警察官に申告したときは、自首が成立する。
刑法四二条一項の自首が成立するとされた事例
刑法42条1項
判旨
犯罪事実が官に発覚する前に、捜査機関に対し進んで自己の犯罪事実を申告した以上、たとえ過去に虚偽の陳述をして事件の真相を妨げた事情があったとしても、刑法42条1項の自首が成立する。
問題の所在(論点)
当初、捜査機関に対して虚偽の事実を述べて事件の真相発見を妨げた者が、その後に真実を申告した場合、刑法42条1項の「自首」が成立するか。
規範
刑法42条1項の「自首」とは、罪を犯した者が、捜査機関に発覚する前に、自発的に自己の犯罪事実を申告し、その訴追を委ねる意思表示をいう。本制度の趣旨は、捜査及び処罰を容易ならしめる点にあるが、過去に虚偽の申告等を行って捜査を妨げた経緯があったとしても、その後に自発的な申告がなされ、客観的に「発覚前」かつ「申告」の要件を満たす限り、同条の適用を妨げられない。
重要事実
被告人は無免許運転中に自動車を海中に転落させる事故を起こした。当初、警察官の取調べに対し「同乗者はいなかった」と嘘をつき、物損事故として処理された。しかし、事故から2週間後、被告人は自ら警察官に対し、実は同乗者がおり負傷していたという業務上過失傷害の事実を電話で申告した。申告当時、警察官は人身事故の嫌疑を抱いていなかった。
事件番号: 昭和47(あ)2025 / 裁判年月日: 昭和48年3月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自首が成立する事案においてその認定を誤った判決があっても、諸般の事情を考慮して宣告刑が不当に重いと認められない限り、判決の破棄は要しない。 第1 事案の概要:被告人は業務上過失傷害および道路交通法違反(救護義務違反)の罪に問われた。被告人は事件後、捜査機関に対して自ら犯罪事実を申告したが、原判決は…
あてはめ
まず、被告人の申告当時、警察官は被告人に対し人身事故(業務上過失傷害)の嫌疑を抱いておらず、犯罪事実は「官に発覚」していなかった。次に、当該申告は警察官の尋問を待たず自発的になされたものである。原審は、当初の虚偽陳述が自首制度の趣旨に反することを理由に自首を否定したが、形式的に「発覚前」の「自発的な申告」という要件を充足する以上、過去の隠蔽工作は自首の成立自体を左右するものではなく、量刑上の評価に留まるべきである。したがって、被告人の申告は自首に当たるというべきである。
結論
被告人には業務上過失傷害罪及び道路交通法違反について自首が成立する(ただし、本件では量刑不当とまではいえず上告棄却)。
実務上の射程
自首の成立要件(「発覚前」「申告」)は、犯人の主観的態様や過去の不誠実な態度によって直ちに否定されるものではない。答案上は、まず「発覚」の有無を「特定の犯罪事実」または「特定の犯人」の観点から認定し、その後に虚偽陳述等の事情があっても「自発的な申告」があれば自首を肯定する流れで論述する。
事件番号: 昭和47(あ)1600 / 裁判年月日: 昭和48年2月15日 / 結論: 棄却
道路交通法七二条一項後段、一一九条一項一〇号の規定が憲法三八条一項に違反するものでないことは等裁判所大法廷判決(昭和三五年(あ)第六三六号同三七年五月二日言渡、刑集一六巻五号四九五頁)の趣旨に徴し明らかである。
事件番号: 昭和50(あ)1355 / 裁判年月日: 昭和50年9月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の供述が任意になされたものであるか否かは、取調べの状況や諸般の事情を総合的に考慮して判断されるべきであり、本件においては原審の任意性肯定の判断を維持した。 第1 事案の概要:被告人が行った供述(自白)の任意性について争われた事案。弁護人は、当該供述の任意性に疑いがあるとして違憲及び判例違反を…
事件番号: 昭和44(あ)450 / 裁判年月日: 昭和45年7月28日 / 結論: 棄却
一 道路交通法一一九条一項一〇号は、憲法三八条一項に違反しない。 二 道路交通法一一九条一項一〇号の罪の成立に必要な事実の認識は、必ずしも確定的な認識であることを要せず、未必的な認識でも足りる。
事件番号: 昭和47(あ)1220 / 裁判年月日: 昭和48年8月7日 / 結論: 棄却
報告者が交通事故にかかる車両等の運転者であることは道路交通法七二条一項後段の規定する報告義務の内容となつていない。