判旨
判決に法令適用の誤りがある場合であっても、犯行の態様その他諸般の事情を総合し、当該違法が「著しく正義に反する」と認められないときは、上告棄却を維持すべきである。
問題の所在(論点)
併合罪の一部について、法定刑にない刑種を選択して刑を算定した法令適用の誤りがある場合、その違法を看過した控訴審判決を上告審は必ず破棄しなければならないか。
規範
上告審において職権で判決を破棄するためには、原判決に法令違反や審理不尽の違法が存在するだけでなく、その違法を放置することが「著しく正義に反する」(刑訴法411条1号参照)と認められることを要する。刑法47条の併合罪加重において選択し得ない刑種(罰金刑のみの罪に対して懲役刑)を前提に刑を算定した法令適用の誤りがある場合でも、当該事情のみで直ちに破棄されるのではなく、犯行態様等の諸般の事情を総合して正義に反するか否かを判断すべきである。
重要事実
被告人は業務上過失傷害罪(第一)および道路交通法違反の各罪(第二ないし第四)を犯した。第一審は、道交法70条の安全運転義務違反(事実第二)について、過失による場合の罰則(同法119条2項、5万円以下の罰金のみ)ではなく、故意犯の罰則(同条1項9号、懲役刑を含む)を誤って適用した。その上で、最も重い業務上過失傷害罪に併合罪加重(刑法47条)を行い、被告人を禁錮8月に処した。原判決はこの法令適用ミスを看過して控訴を棄却した。
あてはめ
本件では、事実第二の道路交通法違反について、本来は罰金刑しか選択できない119条2項を適用すべきところ、懲役刑を選択できる119条1項9号を適用した法令適用の誤りがある。これに基づき刑法47条による加重を行った第一審およびそれを維持した原判決には、法令適用の誤りと審理不尽の違法が認められる。しかし、本件各犯行の態様や記録に現れた諸般の事情を総合考慮すれば、当該違法を是正しなくとも、いまだ「著しく正義に反する」とまでは認められないといえる。したがって、判決の結果に影響を及ぼすべき重大な違法とは評価されない。
結論
法令適用の誤りは認められるが、著しく正義に反するとまでは認められないため、上告を棄却する。
事件番号: 昭和44(あ)194 / 裁判年月日: 昭和44年6月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法45条前段の併合罪において、各罪につき懲役刑と禁錮刑という異なる種類の刑を選択した場合、刑法47条但書により、処断刑の長期は各罪の法定刑の長期の合計を超えることはできない。 第1 事案の概要:被告人は、業務上過失傷害罪(旧刑法211条前段)と酒酔い運転罪(道路交通法117条の2第1号)を犯した…
実務上の射程
併合罪の処理において、軽微な罪の法定刑誤認があっても、全体の宣告刑が犯行態様に照らして相当である限り、上告審での破棄理由とはならない。実務上は、刑訴法411条の「著しく正義に反する」という高いハードルを意識した判断といえる。
事件番号: 昭和44(あ)557 / 裁判年月日: 昭和44年9月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】犯罪後の法律により刑の変更があった場合、裁判所は刑法6条及び10条を適用すべきであるが、判決の文脈から改正前の軽い刑を適用したと解される場合は、当該不備は判決に影響を及ぼさない。 第1 事案の概要:被告人が業務上過失傷害罪および道路交通法違反の罪に問われた事案において、第一審判決後、業務上過失傷害…
事件番号: 昭和45(あ)1451 / 裁判年月日: 昭和46年4月8日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】犯罪後の法律により刑の変更があった場合には、刑法6条に基づき新旧両法の法定刑を比較し、軽い方の規定を適用しなければならない。行為時に懲役刑の定めがない罪について、法改正後の懲役刑を選択して処断することは法令違反であり、破棄事由に該当する。 第1 事案の概要:被告人は、昭和43年3月13日に業務上過…
事件番号: 昭和43(あ)2394 / 裁判年月日: 昭和44年2月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法45条前段の併合罪において、異なる種類の刑(懲役と禁錮)を選択した上で刑を併せる場合、同法47条但書の制限を超えて処断することは法令の適用を誤ったものといえる。ただし、宣告刑が不当に重いと認められない限り、直ちに原判決を破棄すべき正義に反する事由(刑訴法411条)には当たらない。 第1 事案の…
事件番号: 昭和47(あ)2025 / 裁判年月日: 昭和48年3月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自首が成立する事案においてその認定を誤った判決があっても、諸般の事情を考慮して宣告刑が不当に重いと認められない限り、判決の破棄は要しない。 第1 事案の概要:被告人は業務上過失傷害および道路交通法違反(救護義務違反)の罪に問われた。被告人は事件後、捜査機関に対して自ら犯罪事実を申告したが、原判決は…