判旨
犯罪後の法律により刑の変更があった場合、裁判所は刑法6条及び10条を適用すべきであるが、判決の文脈から改正前の軽い刑を適用したと解される場合は、当該不備は判決に影響を及ぼさない。
問題の所在(論点)
犯罪後に法定刑が変更された場合において、判決書が刑法6条・10条の適用を明示せず、改正前後のいずれの条文を適用したか不明確であるとき、当該判決は違法として破棄されるべきか。
規範
犯罪後の法律により刑の変更があったときは、刑法6条及び10条に基づき、その最も軽い刑を適用しなければならない。判決書においてこれらの規定の適用が明示されていない場合であっても、他の罪との比較や文脈から改正前の軽い刑を適用した趣旨が明らかであれば、その違法は判決に影響を及ぼすものではない。
重要事実
被告人が業務上過失傷害罪および道路交通法違反の罪に問われた事案において、第一審判決後、業務上過失傷害罪について昭和43年法律第61号による法定刑の引き上げ(刑の変更)が行われた。第一審判決は、刑法6条および10条の適用を明示せず、単に「刑法211条前段」と判示していた。
あてはめ
第一審判決は、業務上過失傷害罪と道路交通法違反を併合罪として処理し、道路交通法違反の罪を「最も重い」と判示している。改正後の業務上過失傷害罪の法定刑と比較した場合、その判断の整合性を鑑みれば、判決文中の「刑法211条前段」とは、改正前の軽い刑を指していると解するのが合理的である。したがって、適用条文の判示に不備はあるものの、実質的には軽い刑が選択されており、被告人に不利益はない。
結論
刑法6条、10条の適用を明示しなかった不備は認められるが、改正前の軽い刑を適用した趣旨と解されるため、判決に影響を及ぼす違法とはいえず、上告を棄却する。
実務上の射程
事件番号: 昭和43(あ)2764 / 裁判年月日: 昭和44年7月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法の一部改正があった場合において、行為時の法律を適用することが憲法及び刑法の原則に合致する。本判決は、改正前の業務上過失致死傷罪(刑法211条前段)を適用した原判決を維持したものである。 第1 事案の概要:被告人が業務上過失致死傷罪に問われた事案において、第一審判決(昭和43年4月12日言渡)は…
法令により刑の変更があった際、判決書での適用条文の記載が不十分であっても、全体の文脈から有利な法が適用されていると合理的に判断できる場合には、刑訴法上の破棄理由にはならないことを示している。
事件番号: 昭和45(あ)1451 / 裁判年月日: 昭和46年4月8日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】犯罪後の法律により刑の変更があった場合には、刑法6条に基づき新旧両法の法定刑を比較し、軽い方の規定を適用しなければならない。行為時に懲役刑の定めがない罪について、法改正後の懲役刑を選択して処断することは法令違反であり、破棄事由に該当する。 第1 事案の概要:被告人は、昭和43年3月13日に業務上過…
事件番号: 昭和45(あ)1222 / 裁判年月日: 昭和45年10月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決に法令適用の誤りがある場合であっても、犯行の態様その他諸般の事情を総合し、当該違法が「著しく正義に反する」と認められないときは、上告棄却を維持すべきである。 第1 事案の概要:被告人は業務上過失傷害罪(第一)および道路交通法違反の各罪(第二ないし第四)を犯した。第一審は、道交法70条の安全運転…
事件番号: 昭和44(あ)194 / 裁判年月日: 昭和44年6月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法45条前段の併合罪において、各罪につき懲役刑と禁錮刑という異なる種類の刑を選択した場合、刑法47条但書により、処断刑の長期は各罪の法定刑の長期の合計を超えることはできない。 第1 事案の概要:被告人は、業務上過失傷害罪(旧刑法211条前段)と酒酔い運転罪(道路交通法117条の2第1号)を犯した…