判旨
犯罪後の法律により刑の変更があった場合には、刑法6条に基づき新旧両法の法定刑を比較し、軽い方の規定を適用しなければならない。行為時に懲役刑の定めがない罪について、法改正後の懲役刑を選択して処断することは法令違反であり、破棄事由に該当する。
問題の所在(論点)
犯罪行為時と判決時との間に法改正があり法定刑が変更された場合(刑法6条)において、行為時に規定されていなかった刑罰を選択することは許されるか。
規範
犯罪後の法律により刑の変更があった場合には、刑法6条および10条に基づき、行為時の法律と裁判時の法律のうち、その法定刑を比較して最も軽い法律を適用すべきである(軽法優先の原則)。
重要事実
被告人は、昭和43年3月13日に業務上過失傷害、酒気帯び運転、無免許運転の各罪を犯した。第一審はこれらを併合罪として懲役10月を言い渡したが、当時の刑法211条(業務上過失致死傷罪)の法定刑は「3年以下の禁錮又は1000円以下の罰金」であり、懲役刑の定めはなかった。その後、同年6月10日の法改正により、同条に「5年以下の懲役」が追加された。原審は、行為時の法定刑にない懲役刑を科した第一審判決を是認した。
あてはめ
被告人の業務上過失傷害の所為は昭和43年3月であり、刑法211条の改正(懲役刑の導入)が行われる同年6月より前の行為である。行為時の同条には法定刑として禁錮刑と罰金刑の定めしかなく、懲役刑の規定は存在しない。刑法6条および10条の規定によれば、改正前後の法定刑を比較して軽い方の規定を適用すべきところ、懲役刑が定められていない旧法が適用されるべきである。したがって、被告人に対し懲役刑を言い渡した原判決の判断には、適用すべき法律を誤った法令違反がある。
結論
行為時に存在しない刑罰を科すことはできない。原判決には判決に影響を及ぼすべき法令の違反があり、これを破棄しなければ著しく正義に反するため、原判決を破棄し、量刑について審理させるため差し戻すべきである。
事件番号: 昭和44(あ)557 / 裁判年月日: 昭和44年9月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】犯罪後の法律により刑の変更があった場合、裁判所は刑法6条及び10条を適用すべきであるが、判決の文脈から改正前の軽い刑を適用したと解される場合は、当該不備は判決に影響を及ぼさない。 第1 事案の概要:被告人が業務上過失傷害罪および道路交通法違反の罪に問われた事案において、第一審判決後、業務上過失傷害…
実務上の射程
刑法6条の「刑の変更」に関する基本的な運用を示す。行為時になかった刑種を選択することは、罪刑法定主義の観点からも許されない。答案上は、時効期間の基準となる法定刑の判断や、本件のように法改正を跨ぐ事案での適切な法定刑選択を確認する際に参照すべき判例である。
事件番号: 昭和43(あ)2764 / 裁判年月日: 昭和44年7月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法の一部改正があった場合において、行為時の法律を適用することが憲法及び刑法の原則に合致する。本判決は、改正前の業務上過失致死傷罪(刑法211条前段)を適用した原判決を維持したものである。 第1 事案の概要:被告人が業務上過失致死傷罪に問われた事案において、第一審判決(昭和43年4月12日言渡)は…
事件番号: 昭和45(さ)1 / 裁判年月日: 昭和45年4月16日 / 結論: 破棄自判
昭和四三年法律第六一号による改正刑法施行前の業務上過失傷害の所為につき懲役刑を言渡した判決は、刑法六条に違反したものであり、被告人に不利益であるから、破棄すべきである。
事件番号: 昭和45(あ)1222 / 裁判年月日: 昭和45年10月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決に法令適用の誤りがある場合であっても、犯行の態様その他諸般の事情を総合し、当該違法が「著しく正義に反する」と認められないときは、上告棄却を維持すべきである。 第1 事案の概要:被告人は業務上過失傷害罪(第一)および道路交通法違反の各罪(第二ないし第四)を犯した。第一審は、道交法70条の安全運転…