昭和四三年法律第六一号による改正刑法施行前の業務上過失傷害の所為につき懲役刑を言渡した判決は、刑法六条に違反したものであり、被告人に不利益であるから、破棄すべきである。
昭和四三年法律第六一号による改正刑法施行前の業務上過失傷害の所為につき懲役刑を言渡した判決と破棄
刑法の一部を改正する法律(昭和43年法律61号),刑法6条,刑法10条,刑法211条,刑訴法458条
判旨
犯罪後の法律により刑の変更があった場合、刑法6条及び10条に基づき、行為時法と裁判時法の法定刑を比較し、より軽い方の法律を適用すべきである。行為時法に定めがない懲役刑を、改正後の裁判時法に基づき科した原判決は、法令違反として破棄を免れない。
問題の所在(論点)
犯罪行為時と裁判時で法定刑が変更された場合(刑法6条、10条)、行為時法に存在しない刑種(懲役刑)を裁判時法に基づき科すことができるか。
規範
犯罪後の法律により刑の変更があったときは、刑法6条に基づき、その刑が軽いときは新法(裁判時法)による。一方、旧法(行為時法)の方が軽い場合には、同条の反対解釈および刑法10条の規定に従い、最も軽い行為時法の刑を適用しなければならない。法定刑に懲役刑が含まれない行為時法に対し、後に懲役刑が導入された新法を適用して懲役刑を科すことは、刑罰不遡及の原則に反し許されない。
重要事実
被告人は昭和43年3月2日及び5月5日の2回にわたり、業務上の過失により他人に傷害を負わせた(業務上過失傷害罪)。行為当時の刑法211条の法定刑は「3年以下の禁錮又は1000円以下の罰金」であったが、同年6月10日施行の改正刑法により「5年以下の懲役若しくは禁錮又は1000円以下の罰金」へと厳罰化された。一審(原判決)は、行為時より重い裁判時の改正法を適用し、被告人に対し懲役8月(執行猶予3年)の判決を言い渡し、同判決は確定した。
事件番号: 平成4(さ)3 / 裁判年月日: 平成4年11月20日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】犯罪後の法律により刑の変更があった場合、刑法6条及び10条に基づき、行為時法と裁判時法を比較して最も軽い刑を適用しなければならない。本件では、行為時法の罰金上限額(20万円)を超える罰金刑(40万円)を科した略式命令は法令違反であり、破棄を免れない。 第1 事案の概要:被告人は平成3年3月28日、…
あてはめ
本件各行為は刑法改正(昭和43年法律61号)前に行われたものである。行為時法(改正前211条)の法定刑は禁錮刑までであり、裁判時法(改正後211条)には新たに懲役刑が導入されている。刑法10条の比較によれば、懲役刑を導入した新法は明らかに旧法より重い。したがって、刑法6条に基づき、より軽い行為時法を適用すべきであるにもかかわらず、原判決が行行為時法に定めのない懲役刑を選択したことは、明らかに法令に違反し、かつ被告人に不利益な適用であるといえる。
結論
原判決中、業務上過失傷害につき懲役刑を科した部分は法令違反として破棄される。刑法6条に基づき軽い行為時法を適用し、被告人を禁錮6月(執行猶予3年)に処する。
実務上の射程
時の経過による刑罰法令の改廃に関する「刑の軽重」比較の基本ルールを示す射程を持つ。答案上は、事後法の禁止(憲法39条)を具体化する刑法6条・10条の適用場面で、法定刑の枠組み自体が変動している場合に、最も軽い刑期・刑種を選択する際の論拠として活用する。
事件番号: 昭和49(さ)1 / 裁判年月日: 昭和49年3月19日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】犯罪後の法律により刑の変更があった場合、刑法6条および10条に基づき、行為時法と裁判時法を比較して最も軽い法の規定を適用しなければならない。本件では、法定刑の上限が引き上げられた改正後の法律ではなく、より軽微な上限を定めていた行為時の法律を適用すべきである。 第1 事案の概要:被告人は業務上過失傷…
事件番号: 昭和45(あ)1451 / 裁判年月日: 昭和46年4月8日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】犯罪後の法律により刑の変更があった場合には、刑法6条に基づき新旧両法の法定刑を比較し、軽い方の規定を適用しなければならない。行為時に懲役刑の定めがない罪について、法改正後の懲役刑を選択して処断することは法令違反であり、破棄事由に該当する。 第1 事案の概要:被告人は、昭和43年3月13日に業務上過…
事件番号: 昭和47(さ)3 / 裁判年月日: 昭和48年2月27日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】犯罪後に法律の改正により刑が変更された場合、刑法6条及び10条に基づき、行為時と裁判時の刑を比較して軽い方の法律を適用すべきである。本件のように行為時の法定刑の上限を超える刑を科した略式命令は、法令違反であり破棄を免れない。 第1 事案の概要:被告人は傷害事件を起こしたが、その行為は昭和47年7月…