判旨
刑法の一部改正があった場合において、行為時の法律を適用することが憲法及び刑法の原則に合致する。本判決は、改正前の業務上過失致死傷罪(刑法211条前段)を適用した原判決を維持したものである。
問題の所在(論点)
法改正(昭和43年法律第61号による刑法211条の改正)を跨ぐ事案において、改正前の旧法を適用した原判決の判断に、刑事訴訟法411条を適用して破棄すべき著しい法令違反があるか。
規範
犯罪後の法律の変更により刑が軽くなった場合を除き、原則として行為時の法律が適用される(刑法6条参照)。また、刑事訴訟法405条の上告理由に当たらない単なる法令違反や量刑不当の主張は、上告棄却の対象となる。
重要事実
被告人が業務上過失致死傷罪に問われた事案において、第一審判決(昭和43年4月12日言渡)は当時の刑法211条前段を適用した。その後、昭和43年5月21日に同条の改正(法律第61号)が行われたが、原判決は「第一審判決が適用した改正前の法条を適用する趣旨」としてこれを維持した。弁護人は、この適用法条の解釈等に関し法令違反および量刑不当を理由に上告した。
あてはめ
原判決が「第一審判決が適用した法条を適用する」とした点は、時系列的に改正前の刑法211条前段を指すものと認められる。弁護人の主張は単なる法令違反や量刑不当に留まり、最高裁判所が介入すべき憲法違反や判例抵触といった適法な上告理由(刑訴法405条)を構成しない。また、記録を精査しても旧法適用を維持した原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められる事情(刑訴法411条)は存在しない。
結論
本件上告を棄却する。原判決が改正前の刑法211条前段を適用したことに誤りはない。
実務上の射程
事件番号: 昭和44(あ)557 / 裁判年月日: 昭和44年9月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】犯罪後の法律により刑の変更があった場合、裁判所は刑法6条及び10条を適用すべきであるが、判決の文脈から改正前の軽い刑を適用したと解される場合は、当該不備は判決に影響を及ぼさない。 第1 事案の概要:被告人が業務上過失傷害罪および道路交通法違反の罪に問われた事案において、第一審判決後、業務上過失傷害…
法改正が行われた際の経過措置や適用法条の特定に関する実務上の取扱いを確認する事例である。答案上は、時の刑法(刑法6条)の原則通り、行為時法を適用するのが原則であることを前提に、判決文の文理から適用法条を合理的に解釈すべきことを示す際に参照し得る。
事件番号: 昭和45(あ)1451 / 裁判年月日: 昭和46年4月8日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】犯罪後の法律により刑の変更があった場合には、刑法6条に基づき新旧両法の法定刑を比較し、軽い方の規定を適用しなければならない。行為時に懲役刑の定めがない罪について、法改正後の懲役刑を選択して処断することは法令違反であり、破棄事由に該当する。 第1 事案の概要:被告人は、昭和43年3月13日に業務上過…
事件番号: 昭和45(あ)1222 / 裁判年月日: 昭和45年10月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決に法令適用の誤りがある場合であっても、犯行の態様その他諸般の事情を総合し、当該違法が「著しく正義に反する」と認められないときは、上告棄却を維持すべきである。 第1 事案の概要:被告人は業務上過失傷害罪(第一)および道路交通法違反の各罪(第二ないし第四)を犯した。第一審は、道交法70条の安全運転…
事件番号: 昭和44(あ)194 / 裁判年月日: 昭和44年6月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法45条前段の併合罪において、各罪につき懲役刑と禁錮刑という異なる種類の刑を選択した場合、刑法47条但書により、処断刑の長期は各罪の法定刑の長期の合計を超えることはできない。 第1 事案の概要:被告人は、業務上過失傷害罪(旧刑法211条前段)と酒酔い運転罪(道路交通法117条の2第1号)を犯した…