判旨
警察官の取調べ中の暴行による自白強要が、憲法38条1項の黙秘権侵害に該当するか。その前提となる暴行の事実が認められない場合に上告理由となり得るか。
問題の所在(論点)
被告人が主張する「警察官による取調べ中の暴行」という事実の有無が、憲法38条1項違反(自己不利益供述の強要)を構成する前提条件として認められるか。また、その事実が認められない場合に、適法な上告理由(刑訴法405条)となるか。
規範
憲法38条1項は、何人も自己に不利益な供述を強要されない旨を規定する。取調べにおける暴行、拷問等による自白の強要は同条項に抵触し得るが、これを上告理由として主張する場合には、その前提となる暴行等の事実が客観的な証跡によって認められる必要がある。
重要事実
被告人は、警察官からの取調べ中に警察官らから暴行を受けたとして、自白の強要があった(憲法38条1項違反)と主張した。しかし、記録を精査しても、被告人が主張するような暴行の存在を疑わせる証跡は一切認められなかった。また、弁護人および被告人によるその他の主張は、事実誤認または再審事由の主張に留まるものであった。
あてはめ
被告人は暴行による自白の強要を訴えるが、記録上、暴行の事実は存在しないと判断される。憲法38条1項違反を主張する前提となる「暴行の存在」が認められない以上、当該主張は前提を欠くものといわざるを得ない。したがって、憲法違反の主張は成立せず、その他の事実誤認等の主張も刑訴法405条所定の上告理由には当たらない。
結論
本件上告は、憲法38条1項違反の前提となる事実が認められず、かつその他の点も適法な上告理由に当たらないため、棄却される。
実務上の射程
自白の任意性や供述強要を争う場合、単なる主観的な主張だけでなく、客観的な記録や証跡によってその前提事実(暴行・脅迫等)が基礎付けられていなければ、憲法違反の適法な上告理由として構成することは困難である。
事件番号: 昭和28(あ)2889 / 裁判年月日: 昭和28年10月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法38条3項及び刑訴法319条2項が定める自白の補強法則について、自白のみで有罪とすることはできないが、これに加えて多くの証拠を総合して犯罪事実を認定できる場合は補強証拠として十分である。 第1 事案の概要:被告人は窃盗の事実について有罪とされたが、被告人は原判決が自白のみを証拠として有罪を認定…
事件番号: 昭和62(あ)557 / 裁判年月日: 昭和62年9月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自白の任意性に疑いがあるとする主張については、記録上、捜査官による暴行や脅迫等の事実を認めるに足りる証跡がない限り、憲法38条違反の前提を欠く。また、地方裁判所の判決は、刑事訴訟法405条3号にいう「判例」には当たらない。 第1 事案の概要:被告人および弁護人は、捜査官の暴行・脅迫等によって自白が…