判旨
裁判官に対する忌避の申立ては、対象となる裁判官が転補等により当該事件の担当を離れた場合には、その対象を失い、申立てを却下した決定等を取り消す実益が消滅する。
問題の所在(論点)
裁判官に対する忌避の申立てにおいて、その対象となった裁判官が転補によって担当を外れた場合、忌避申立ての却下決定に対する不服申立ての利益(取消しの実益)は存続するか。
規範
忌避の申立ては、特定の裁判官を職務から排除することを目的とするものである。したがって、対象とされた裁判官が人事異動(転補)等によって物理的・法的に当該事件の審理担当を離れた場合には、申立ての対象が消滅し、不服申立てを維持する利益(実益)は失われる。
重要事実
被告人が裁判官Aに対して忌避の申立てを行ったが、却下されたため抗告(または再抗告)に及んだ。しかし、最高裁判所での審理継続中に、対象裁判官Aが他裁判所へ転補され、本件被告事件の審理担当から外れたことが顕著な事実として認められた。
あてはめ
本件において、忌避の対象であった裁判官Aは、昭和45年4月1日付で浦和家庭裁判所兼浦和地方裁判所に転補されている。これにより、同裁判官は本件被告事件の審理担当を離れたことが明らかである。そうすると、忌避申立てはその対象を失っており、現在において忌避申立て却下決定やそれを維持した原決定を取り消したとしても、当該裁判官を排除するという目的は既に達せられているのと同様の状態にある。
結論
本件忌避申立ては対象を失い、取消しの実益を欠くに至ったため、抗告は棄却されるべきである。
実務上の射程
裁判官の除斥・忌避に関する手続的利益の存否を判断する際の基礎となる判例である。担当裁判官が交代した場合には、忌避の当否を実体的に判断することなく、手続的利益の喪失を理由に却下(または本件のように棄却)されることを示している。答案上は、審理の遅延を目的とした濫用的な忌避申立てがなされた後、裁判官の交代が生じた場面などで「訴えの利益」に相当する「取消しの実益」を否定する論拠として活用できる。
事件番号: 昭和44(し)81 / 裁判年月日: 昭和45年2月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判官に不公平な裁判をするおそれがあるとするには、単に主観的な懸念があるだけでは足りず、客観的な事実に基づき、通常人が不公平な裁判が行われると信じるに足りる状況が必要である。 第1 事案の概要:被告人の弁護人は、正田裁判官について、特定の事実関係(詳細は判決文からは不明)を理由に、同裁判官が不公平…
事件番号: 昭和33(し)85 / 裁判年月日: 昭和33年12月15日 / 結論: 棄却
一 裁判官忌避申立却下決定の成立後、その送達前に、その決定をした裁判官を忌避する申立があつても、右決定は、訴訟法上適法に構成された裁判所の裁判たる性質を失うものではない。 二 刑訴第二三条にいう「その裁判官所属の裁判所が、決定を」するというのは、忌避された裁判官所属の裁判所の裁判官をもつて構成される、訴訟法上の意味の裁…
事件番号: 昭和25(し)35 / 裁判年月日: 昭和25年8月29日 / 結論: 棄却
本件裁判官忌避申立事件として爭點となる事實は、結局金澤地方裁判所が所論の各證據調の決定をしたことを以つて同裁判所裁判官が「不公平な裁判」をする虞れがあるとするかどうかということである。しかるに、論旨の理由とする憲法違反の各理由は、いずれも同裁判所がした證據調の決定そのものに對する非難であつて、斯る事由は證據調に對する異…
事件番号: 昭和25(ク)132 / 裁判年月日: 昭和26年8月15日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】裁判官のした以前の裁判上の判断が仮に誤りであったとしても、そのことのみから直ちに裁判の公正を妨げる事情があるとはいえない。 第1 事案の概要:抗告人は、別件の戸籍抹消請求事件において裁判長判事Dが認諾の効力を否定した判断は誤りであると主張した。その上で、本件(遺産処分同意の取消等請求事件)を審判す…
事件番号: 昭和25(ク)50 / 裁判年月日: 昭和25年7月21日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】本案訴訟について日本の裁判所の裁判権が及ばない場合には、当該訴訟に関与する裁判官に対する忌避の申立てについても裁判権は及ばない。裁判所は、このような裁判権を欠く忌避申立てに対し、決定をもって申立書を却下すべきである。 第1 事案の概要:抗告人らは、法務総裁が団体等規正令に基づき行った指定の取消しを…