判旨
外国人登録法に基づく登録・提示義務の不法入国者への適用は、自己負罪拒否権(憲法38条1項)および残虐な刑の禁止(憲法36条)に違反しない。
問題の所在(論点)
不法に本邦に入った者に対し、外国人登録法上の登録・提示義務を課し、これに違反した場合を処罰する規定(同法3条1項、11条1項、18条1項等)を適用することは、自己に不利益な供述を強要するものとして憲法38条1項に、またその罰則規定は憲法36条に違反しないか。
規範
1. 憲法38条1項の保障は、刑事責任を問われるおそれのある事項について供述を強要されない権利を意味するが、行政上の目的で課される登録・提示義務の履行が、結果的に過去の犯罪事実の露見につながるとしても、直ちに同項に違反するものではない。 2. 憲法36条にいう「残虐な刑」とは、その刑罰の性質が人道上残酷であると認められるものを指し、行政上の義務違反に対する刑罰が直ちにこれに該当することはない。
重要事実
被告人は、不法に日本に入国した外国人である。外国人登録法に基づき、入国後の登録申請や外国人登録証明書の提示義務を負っていたが、これに従わなかった。被告人側は、不法入国を自認することになる登録等の義務を課すことは自己負罪拒否権を侵害し、またその罰則は残虐な刑にあたると主張して争った。
あてはめ
1. 外国人登録法が定める登録制度は、在留外国人の公正な管理という正当な行政目的のために設けられたものである。不法入国者に対しても一律に同法を適用することは、行政上の必要性に基づくものであり、特定の刑事追及を目的とした供述の強制とは解されない。したがって、憲法38条1項の趣旨に照らし、同項に違反するものではない。 2. 外国人登録法18条に定める刑罰は、行政義務の履行を確保するための手段であり、その内容が人道上の観点から異常かつ酷烈なものとはいえないため、憲法36条には抵触しない。
結論
外国人登録法の各規定が不法入国者に適用されることは、憲法38条1項および36条に違反しない。したがって、被告人を同法違反で処罰することは適憲である。
実務上の射程
行政上の届出・提示義務と刑事責任の不利益の関係について、先行判例(最大判昭31・12・26等)を維持し、管理目的の行政義務が自己負罪拒否権の保障範囲を直ちに逸脱しないことを確認した。実務上は、行政目的と刑事手続の区別を論証する際の基礎となる。
事件番号: 昭和55(あ)209 / 裁判年月日: 昭和55年5月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不法入国した外国人に対しても外国人登録法上の登録義務は課され、その義務の履行を強制することは憲法38条1項の自己負罪拒否特権に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、本邦に不法入国した外国人であった。外国人登録法3条1項は、入国した外国人に対して新規登録の申請義務を課しているが、被告人は不法入国…