一 本邦に不法に入つた外国人に対し外国人登録法三条一項、一八条一項の適用を認めても、憲法三八条一項にいう「自己に不利益な供述」を強要したことにならない。 二 不法入国外国人の登録申請を受理するにあたり、旅券に代わるべき書面として提出を求める陳述書及び理由書に、不法入国に関する具体的事実の記載を示唆する取扱いをしていた場合であつても、右陳述書等に不法入国に関する具体的事実の記載をするのでなければ外国人登録の申請を適法なものとはしないという取扱いをしていたとまでは認められないときは、かかる取扱いのもとにおいて、法定の期間内に登録申請手続をしなかつた不法入国外国人に対し外国人登録法三条一項違反の罪の成立を認めることは、憲法三八条一項に違反しない。
一 本邦に不法に入つた外国人に対し外国人登録法三条一項、一八条一項の適用を認めることと憲法三八条一項 二 旅券に代わるべき書面として提出を求める陳述書等に不法入国に関する具体的事実の記載を示唆する等の取扱いのもとにおいて不法入国外国人に対し外国人登録法三条一項違反の罪の成立を認めることと憲法三八条一項
外国人登録法(昭和55年法律64号による改正前のもの)3条1項,外国人登録法(昭和55年法律64号による改正前のもの)18条1項,外国人登録法施行規則2条1項,憲法38条1項
判旨
不法入国した外国人に対しても外国人登録の申請義務を課し、これに違反した者を処罰することは、行政目的を達成するために必要かつ合理的な制度であり、憲法38条1項に違反しない。たとえ行政窓口で不法入国の具体的経緯の記載が示唆されていたとしても、その記載が適法な申請の絶対的条件となっていない限り、自己負罪拒否特権を侵害するものとはいえない。
問題の所在(論点)
不法入国した外国人に外国人登録義務を課し、その不履行を刑罰をもって禁ずることは、自己に不利益な供述を強制することを禁じた憲法38条1項に違反しないか。行政窓口において不法事実の申告を示唆する運用がなされている場合、実質的な強制に当たらないかが問題となる。
規範
行政手続において供述義務を課すことが憲法38条1項に違反するか否かは、①当該手続が実質的に刑事責任の追及を目的とするものであるか、またはその資料収集に直接結びつく作用を有するか、②当該義務が行政目的を達成するために必要かつ合理的な制度であるか、という観点から判断される。また、現実の運用において行政目的の範囲を超えて秘密の開示を強制し、それを拒めば適法な申請として受理されないような場合には、適用違憲の問題が生じ得る。
重要事実
本邦に不法入国した被告人が、外国人登録法3条1項所定の期間内に登録申請を行わなかったとして、同法18条1項違反で起訴された。被告人の居住地を管轄する区役所では、登録申請の際、旅券の代わりに提出する「陳述書」や「理由書」に対し、不法入国に関する具体的経緯(動機、日時、場所等)を記載するよう示唆する運用がなされていた。しかし、それらの具体的な事実の記載がなければ、登録申請を適法なものとして受理しないという運用まではなされていなかった。
あてはめ
まず、外国人登録制度は在留外国人の公正な管理という行政目的のために必要かつ合理的な制度であり、刑事追及を直接の目的とするものではないため、原則として憲法38条1項には違反しない。次に、本件の運用について検討するに、区役所が不法入国の詳細な記載を示唆していた事実は認められる。しかし、不法入国の具体的な経緯を申告しなければ申請を拒否するという運用までは認められない。したがって、被告人が法定期間内に申請を行わなかったことに対し刑罰を科すことは、依然として行政上の義務違反を問うものにとどまり、自己負罪の強要には当たらないといえる。
結論
外国人登録法3条1項が不法入国外国人にも適用され、その違反を処罰することは、本件の運用状況を考慮しても憲法38条1項に違反しない。
実務上の射程
行政上の報告義務と自己負罪拒否特権の関係を示す重要判例である。答案上では、川崎民商事件判決等の規範(目的の正当性・必要性・合理性)を前提としつつ、本判決を引用して「実質的な強制の有無」という観点から、窓口での教示内容や受理拒否の有無といった運用の実態まで踏み込んで違憲性を検討する際の指針として活用できる。
事件番号: 昭和54(あ)112 / 裁判年月日: 昭和56年11月26日 / 結論: 棄却
一 本邦に不法に入つた外国人に対し外国人登録法三条一項、一八条一項の適用を認めても、憲法三八条一項にいう「自己に不利益な供述」を強要したことにならない。 二 外国人登録法三条一項の規定は、旅券を提出せずしかも不法入国の事実自体を供述しないでする不法入国外国人の登録申請を不適法とする趣旨を含むものではない。