判旨
第一審の裁判官が関連事件の審理に関与し、事前に本件に関する知識を有していたとしても、それだけで憲法37条1項にいう「公平な裁判所」の裁判ではないということはできない。
問題の所在(論点)
裁判官が関連事件を審理したことにより、本件についての予備知識を有している場合、憲法37条1項の「公平な裁判所」に反するか。また、これを理由に移送(刑訴法19条1項)を認めないことが違憲といえるか。
規範
憲法37条1項の「公平な裁判所」とは、偏頗の恐れのない客観的な状態が保障されている裁判所をいう。しかし、裁判官が同一被告人または共犯者の関連事件を審理した結果、事件の背後事情や証拠に関する知識をあらかじめ有することになったとしても、そのことのみをもって直ちに当該裁判官が予断を抱き、不公平な裁判をする蓋然性があるとは認められない。
重要事実
被告人の刑事事件において、第一審の担当裁判官が本件の関連事件の審理を既に行っていた。弁護人は、当該裁判官が関連事件の審理を通じて事前に本件に関する知識を有していることを理由に、憲法37条1項(公平な裁判所の保障)や刑事訴訟法19条1項(移送)等に違反すると主張して抗告した。
あてはめ
本件において、第一審裁判官が関連事件を審理した事実は認められる。しかし、裁判官が職務上他の事件を通じて得た知識は、当該裁判官が本件の証拠に基づき独立して判断を行うことを妨げるものではない。関連事件の審理経験があるという事実のみでは、具体的・客観的な偏頗の恐れがあるとはいえず、公平な裁判所の保障を奪うものとは解されない。また、移送請求の却下についても、直ちに対審公開の保障(憲法82条)を侵害するものではない。
結論
第一審裁判官が関連事件を審理したからといって、憲法37条1項にいう「公平な裁判所」の裁判ではないとはいえない。したがって、本件抗告は棄却される。
事件番号: 昭和46(し)94 / 裁判年月日: 昭和46年11月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不服申立に対する却下決定に対し特別抗告を申し立てる場合、その理由は当該却下決定自体の憲法違反等でなければならず、前審の判断内容を争う事由は不適法である。 第1 事案の概要:申立人は、管轄移送申立を却下する決定に対し即時抗告をしたが、これも棄却された。当該棄却決定は申立人に送達され、これに対して直接…
実務上の射程
裁判官の除斥(刑訴法20条)の事由は限定的に解されており、本判決は、前審関与(20条7号)以外の類似事由(関連事件の審理)が直ちに不公平な裁判所を構成しないことを明確にした。答案上は、裁判官の忌避(21条)における「不公平な裁判をする虞」の判断において、単なる関連事件の審理経験は原則としてこれに当たらないとする論拠として活用できる。
事件番号: 昭和42(し)37 / 裁判年月日: 昭和42年8月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】同一の裁判官が共犯者の公判審理を担当し、被告人の事件内容に関する知識を得ていたとしても、それのみでは不公平な裁判をするおそれがあるとはいえず、裁判官の忌避事由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人らの事件に関し、担当裁判官がこれより先に共犯者の公判審理を行っていた。被告人側は、当該裁判官が共犯…
事件番号: 昭和48(し)114 / 裁判年月日: 昭和49年1月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判官において不公平な裁判をするおそれがあるとはいえない場合には、憲法37条1項にいう公平な裁判所の要件に反しない。 第1 事案の概要:抗告人は、特定の裁判官(高木實裁判官)が審理に関与することについて、不公平な裁判をするおそれがあるとして憲法37条1項違反を主張し、抗告を申し立てた。なお、具体的…
事件番号: 昭和46(し)57 / 裁判年月日: 昭和46年7月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共犯者の事件の審理に関与した裁判官が、別の共犯者の事件を担当することは、憲法37条1項が保障する不公平な裁判をするおそれがあるものとはいえず、違憲ではない。 第1 事案の概要:被告人は、自身の事件の審理を担当する裁判官が、以前に当該事件と共犯関係にある他の被告人の事件の審理に関与していたことを理由…
事件番号: 昭和50(し)12 / 裁判年月日: 昭和50年4月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共犯者の事件の審理に関与し、当該事件において被告人の供述調書を証拠採用した裁判官が、後に被告人自身の事件の審理を担当することは、憲法37条1項が保障する不公平な裁判をするおそれがあるものとはいえない。 第1 事案の概要:被告人の共犯者について行われた刑事事件の審理に関与した裁判官が、当該共犯者の事…