判旨
刑の執行猶予の言渡しを取り消すべき原因とされた後罪の有罪判決が、上訴権回復請求の認容により未確定の状態に復帰した場合には、当該執行猶予取消決定は違法として取り消されるべきである。
問題の所在(論点)
執行猶予取消しの前提となった後罪の有罪判決が、上訴権回復により未確定となった場合、すでになされた執行猶予言渡しの取消決定は維持されるか。取消決定の前提となる「確定判決」の存在が否定された場合の救済の可否が問題となる。
規範
刑法26条1号等の規定に基づく刑の執行猶予言渡しの取消しは、その前提となる後罪の禁錮以上の刑に処せられた判決が確定していることを要件とする。当該判決が確定したものとしてなされた取消決定であっても、その後に上訴権回復請求が認められるなどして、前提となる有罪判決が未確定の状態に復帰した場合には、取消しの要件を欠くに至るため、当該取消決定は違法となり、これを取り消さなければ著しく正義に反すると解される。
重要事実
申立人は窃盗罪により懲役1年、執行猶予4年の判決を受けていた。その猶予期間内に職業安定法違反等の罪を犯し、懲役1年の判決を受けた。当該後罪の判決に対し、控訴棄却後の上告提起期間内に上告がなされなかったため、判決は確定したものとみなされ、地方裁判所は前刑の執行猶予言渡しを取り消す決定を下した。しかしその後、最高裁判所により後罪の控訴棄却判決に対する上訴権回復請求が認容され、後罪の判決は未確定の状態に復帰した。
あてはめ
本件において、執行猶予取消決定の根拠とされた大阪地裁の懲役1年の判決は、上訴権回復請求が認容されたことにより、遡って未確定の状態に戻った。執行猶予の取消しは、刑法上の取消事由(確定判決の存在)を前提とするものであるところ、本件ではその前提が失われている。したがって、右判決が確定したものとして執行猶予を取り消した原決定および第一審決定には、前提を誤った違法があるといえる。このような状態を放置することは著しく正義に反するため、刑訴法411条1号を準用して取り消すべきである。
結論
執行猶予取消決定を取り消し、検察官による執行猶予言渡取消請求を棄却する。
事件番号: 昭和40(し)74 / 裁判年月日: 昭和41年1月28日 / 結論: その他
一 執行猶予の判決に対する検察官の控訴を棄却する旨の判決言渡後確定前に、検察官において、被告人が他の罪について禁錮以上の実刑に処せられた事実を覚知したのにかかわらず、右控訴棄却の判決に対して上告の申立をすることなく、これを確定させたときは、刑法第二六条第三号により右執行猶予を取り消すことはできない。 二 弁護人は、本件…
実務上の射程
執行猶予取消しの実体要件(刑法26条各号、26条の2各号)において、前提となる判決の「確定」が不可欠であることを示す。上訴権回復という例外的な事態により確定の効力が覆された場合に、付随する決定も遡及的に影響を受けるという論理は、刑事手続における法的安定性と正当な手続保障の調整の観点から重要である。
事件番号: 昭和54(し)27 / 裁判年月日: 昭和54年3月27日 / 結論: その他
刑法二六条一号にいう「禁錮以上ノ刑ニ処セラレ」とは、禁錮以上の刑の言渡をした判決が確定したことをいう。
事件番号: 昭和56(し)44 / 裁判年月日: 昭和56年4月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】執行猶予の言渡しを取り消す旨の決定が告知された時点で猶予期間が満了していなければ、その後の特別抗告の係属中に猶予期間が経過したとしても、刑法27条による刑の言渡しの失効は生じない。 第1 事案の概要:被告人に対し執行猶予が付された刑の言渡しがあった。その後、執行猶予の取消事由が生じたため、裁判所は…
事件番号: 昭和54(し)135 / 裁判年月日: 昭和55年2月25日 / 結論: 棄却
一 刑法二六条の三の規定は、憲法一一条、一三条、三一条に違反しない。 二 刑法二六条の三による刑の執行猶予言渡の取消は、同法二六条、二六条の二による刑の執行猶予言渡取消決定の確定をまたず、これと同時に行うことも許される。 三 甲執行猶予の言渡を刑法二六条の二第二号により取り消すと同時に、乙執行猶予の言渡を同法二六条の三…
事件番号: 昭和54(し)29 / 裁判年月日: 昭和54年3月29日 / 結論: 棄却
刑の執行猶予言渡取消決定に関する特別抗告の係属中に執行猶予期間に相当する期間が経過したことは、すでに発生している執行猶予取消の効果に影響しない。