一 執行猶予の判決に対する検察官の控訴を棄却する旨の判決言渡後確定前に、検察官において、被告人が他の罪について禁錮以上の実刑に処せられた事実を覚知したのにかかわらず、右控訴棄却の判決に対して上告の申立をすることなく、これを確定させたときは、刑法第二六条第三号により右執行猶予を取り消すことはできない。 二 弁護人は、本件につき、上申書と題する書面を提出している。ところで、刑訴規則第二七四条によれば、刑訴法第四三三条の抗告の申立書には、抗告の趣旨を簡潔に記載しなければならないと定められており、この規定は、抗告の趣旨はすべて申立書自体に記載すべきもので、申立書以外の書面によることは許されないという意味であると解するのが相当である。したがつて、右上申書は不適法なものであるから、判断を加えない。
一 刑法第二六条第三号による執行猶予の取消ができないとされた事例 二 刑訴法第四三三条の特別抗告の趣旨を申立書以外の書面に記載することの適否
刑訴法405条,刑訴法411条,刑訴法433条,刑法26条,刑訴規則274条
判旨
検察官が判決確定前に被告人が執行猶予の欠格者であることを覚知したにもかかわらず、上告等の確定阻止措置を講じなかった場合、刑法26条3号に基づく執行猶予取消請求権は失われる。
問題の所在(論点)
検察官が、執行猶予を言い渡すべきでない欠格事由があることを判決確定前に知りながら、上訴等の確定阻止措置を講じなかった場合において、刑法26条3号に基づく執行猶予の取消しが認められるか。
規範
刑法26条3号は、上訴により違法な執行猶予判決を是正する道が閉ざされた場合に補充的にその取消を認める趣旨である。したがって、検察官が判決確定前に欠格事由を覚知したときは、上訴権を行使して判決の確定を阻止すべきであり、これを怠った場合には同号による取消請求権を失い、裁判所もこれを受理できない。
重要事実
事件番号: 昭和48(し)7 / 裁判年月日: 昭和48年2月28日 / 結論: 棄却
刑の執行猶予の判決に対し被告人のみが控訴し、この控訴申立期間経過後で同判決の確定前に、被告人に対する別件被告事件について禁錮刑(実刑)の裁判が確定した場合は、右刑の執行猶予の判決の確定をまつて刑法二六条三号により刑の執行猶予の言渡を取り消すことができる。
申立人はA罪で懲役8月の実刑判決を受け、その確定前の昭和37年にB罪により懲役8月執行猶予2年の判決を受けた。B罪の控訴審で控訴棄却判決が出された後、その確定前に検察官はA罪の実刑判決が確定した事実(=申立人がB罪につき執行猶予の欠格者であること)を覚知した。しかし、検察官は上告等の確定阻止手続をとらずにB罪の判決をそのまま確定させた上で、刑法26条3号に基づき執行猶予の取消しを請求した。
あてはめ
検察官は、執行猶予判決に対する控訴棄却判決後、その確定前に被告人が執行猶予の欠格者であることを覚知していた。このような違法な判決の確定を阻止することは著しく正義にかなうものであり、検察官は上訴権を行使して職権発動を求めるべきであった。それにもかかわらず、検察官が上告せず漫然と判決を確定させた以上、補充的な救済手段である刑法26条3号の取消請求を行うことは許されない。
結論
検察官による本件執行猶予取消請求は棄却されるべきである。
実務上の射程
刑法26条各号による執行猶予の取消しが、既判力(ないし確定判決の拘束力)の例外であることを踏まえ、検察官による制度の濫用を制限する射程を持つ。特に3号取消しについては、上訴による是正が不可能な場合に限るという「補充性」を答案上明示する際に有用である。
事件番号: 昭和56(し)113 / 裁判年月日: 昭和56年11月25日 / 結論: その他
一 刑の執行猶予言渡取消決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件において、裁判の執行を停止する場合には、原原決定を対象とすべきである。 二 高裁で言い渡された執行猶予の判決に対する上告申立期間の満了までに五日を残して、被告人の控訴取下により別件につき地裁で言い渡された懲役刑(実刑)の判決の確定したことが地方検察…
事件番号: 昭和60(し)106 / 裁判年月日: 昭和60年11月29日 / 結論: 棄却
執行猶予の言渡しがあつた事件において、被告人が、捜査官に対しことさら知人である甲女の氏名を詐称し、かねて熟知していた同女の身上及び前科をも正確詳細に供述するなどして、あたかも甲女であるかのように巧みに装つたため、捜査官が全く不審を抱かず、指紋の同一性の確認をしなかつたことにより、当該判決の確定前に被告人自身の前科を覚知…
事件番号: 昭和54(し)27 / 裁判年月日: 昭和54年3月27日 / 結論: その他
刑法二六条一号にいう「禁錮以上ノ刑ニ処セラレ」とは、禁錮以上の刑の言渡をした判決が確定したことをいう。
事件番号: 昭和59(し)117 / 裁判年月日: 昭和59年12月18日 / 結論: 棄却
刑の執行猶予の判決確定後に、同判決確定前に犯した他の罪につき禁錮以上の実刑に処する判決が確定したときは、右実刑判決が、未決勾留日数の裁定算入及び法定通算により、現実に刑の執行をなしうる余地がないものであつても、刑法二六条二号に該当する。