一 刑の執行猶予言渡取消決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件において、裁判の執行を停止する場合には、原原決定を対象とすべきである。 二 高裁で言い渡された執行猶予の判決に対する上告申立期間の満了までに五日を残して、被告人の控訴取下により別件につき地裁で言い渡された懲役刑(実刑)の判決の確定したことが地方検察庁に通知されており、高等検察庁検察官において、地方検察庁検察官と相互に連絡を取り合うなどの方法をとつていれば、右懲役刑に処せられた事実を執行猶予の判決に対する上告申立期間満了前に覚知することができたのに、これに気付かないまま執行猶予の判決を確定させた場合には(判文参照)、刑法二六条三号により右執行猶予を取り消すことはできない。
一 刑の執行猶予言渡取消決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件における裁判の執行停止とその対象とすべき裁判 二 刑法二六条三号による刑の執行猶予の取消ができないとされた事例
刑法26条,刑訴法424条,刑訴法434条,刑訴法349条,憲法39条
判旨
刑法26条3号による執行猶予の取消しは、上訴により違法な判決を是正する途が閉ざされた場合に限られる。検察官が相互の連絡等により上告申立期間内に欠格事由を容易に知ることができた場合には、上訴により確定を阻止できたものとみなされ、取消請求権は失われる。
問題の所在(論点)
被告人が執行猶予の言渡し前に他の罪について実刑に処せられたことが判決確定後に発覚した場合(刑法26条3号)、検察官が注意を尽くせば判決確定前に当該事実を覚知し上訴できたときでも、執行猶予の取消しが認められるか。
規範
刑法26条3号の趣旨は、検察官が上訴により違法に言い渡された執行猶予判決を是正する途が閉ざされた場合に、その取消しを認める点にある(上訴是正主義)。したがって、検察官が判決確定前に欠格事由の存在を現実、またはそれと同視すべき程度に覚知し、上訴によって判決の確定を阻止することができた場合には、同条による取消請求権は失われる。
事件番号: 昭和60(し)106 / 裁判年月日: 昭和60年11月29日 / 結論: 棄却
執行猶予の言渡しがあつた事件において、被告人が、捜査官に対しことさら知人である甲女の氏名を詐称し、かねて熟知していた同女の身上及び前科をも正確詳細に供述するなどして、あたかも甲女であるかのように巧みに装つたため、捜査官が全く不審を抱かず、指紋の同一性の確認をしなかつたことにより、当該判決の確定前に被告人自身の前科を覚知…
重要事実
被告人は第一事件の控訴審係属中に第二事件(実刑)を犯した。第一事件の控訴審判決(執行猶予)の確定前、第二事件の実刑判決が確定し、その通知書は第一事件の上告期間満了の5日前に地検に送付されていた。高検検察官は第二事件が地裁に係属中であることを認識しており、地検との連絡を密にしていれば、上告期間満了前に実刑確定の事実を知ることが可能な状況であった。
あてはめ
高検検察官は、第二事件が地裁に係属中であることを認識していたのであるから、地検検察官と相互に連絡を取り合うなどの方法を講じれば、第一事件の上告期間満了前に第二事件の実刑確定を覚知できたといえる。これは現実の覚知と同視すべきであり、検察官は上訴により第一事件の執行猶予判決の確定を阻止できたと解される。したがって、検察官はもはや取消請求権を行使できない。
結論
検察官による執行猶予取消請求は認められず、これを認容した原決定は取り消されるべきである。
実務上の射程
検察官の「覚知」の範囲を、現実の認識だけでなく「容易に知り得た場合」まで拡大し、被告人の地位の安定を図る射程を有する。答案上は、検察官による取消請求の適否が争われる際、検察庁間の連携の可否や期間的余裕といった個別具体的事実から、上訴による是正の可能性を検討する際の基準となる。
事件番号: 昭和48(し)7 / 裁判年月日: 昭和48年2月28日 / 結論: 棄却
刑の執行猶予の判決に対し被告人のみが控訴し、この控訴申立期間経過後で同判決の確定前に、被告人に対する別件被告事件について禁錮刑(実刑)の裁判が確定した場合は、右刑の執行猶予の判決の確定をまつて刑法二六条三号により刑の執行猶予の言渡を取り消すことができる。
事件番号: 昭和54(し)135 / 裁判年月日: 昭和55年2月25日 / 結論: 棄却
一 刑法二六条の三の規定は、憲法一一条、一三条、三一条に違反しない。 二 刑法二六条の三による刑の執行猶予言渡の取消は、同法二六条、二六条の二による刑の執行猶予言渡取消決定の確定をまたず、これと同時に行うことも許される。 三 甲執行猶予の言渡を刑法二六条の二第二号により取り消すと同時に、乙執行猶予の言渡を同法二六条の三…
事件番号: 昭和56(し)12 / 裁判年月日: 昭和56年2月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法26条の3に基づく保護観察の取消規定は、憲法11条、13条、31条、39条後段に違反せず合憲である。 第1 事案の概要:抗告人は、刑法26条の3の規定に基づき保護観察を取り消されたことに対し、同条が憲法11条、13条、31条、39条後段に違反する旨を主張して特別抗告を申し立てた。 第2 問題の…
事件番号: 昭和54(し)27 / 裁判年月日: 昭和54年3月27日 / 結論: その他
刑法二六条一号にいう「禁錮以上ノ刑ニ処セラレ」とは、禁錮以上の刑の言渡をした判決が確定したことをいう。