刑の執行猶予の判決に対し被告人のみが控訴し、この控訴申立期間経過後で同判決の確定前に、被告人に対する別件被告事件について禁錮刑(実刑)の裁判が確定した場合は、右刑の執行猶予の判決の確定をまつて刑法二六条三号により刑の執行猶予の言渡を取り消すことができる。
刑の執行猶予の判決に対する控訴申立期間経過後で同判決の確定前に被告人に対する別事件についての禁錮刑(実刑)の裁判が確定した場合と刑の執行猶予言渡取消の可否
刑法26条,憲法39条
判旨
刑法26条3号による執行猶予の取消しは、検察官が上訴の方法で判決を是正する途が閉ざされている場合には、憲法39条後段等に反せず認められる。
問題の所在(論点)
執行猶予の言渡しが確定した後に、その猶予の言渡し前に別の禁錮以上の刑に処せられていたことが発覚した場合、刑法26条3号に基づき執行猶予を取り消すことは認められるか。検察官が上訴等の是正手段を失っている場合の判断基準が問題となる。
規範
刑法26条3号の規定による執行猶予の取消しは、検察官において上訴の方法で当該執行猶予の言渡しを含む判決を是正する途がもはや閉ざされていたといえる場合には、適法に認められる。
重要事実
申立人に対し昭和46年10月27日に執行猶予付判決が言い渡された。これに対し申立人のみが控訴したが、その控訴申立期間経過後の同年11月21日に、申立人に対する別件の禁錮4月の裁判が確定した。検察官がこの別件裁判の確定を覚知した時には、既に検察官による上訴等の手段で執行猶予判決を是正することは不可能な状況であった。そこで検察官は、刑法26条3号に基づき執行猶予の取消しを請求した。
事件番号: 昭和40(し)74 / 裁判年月日: 昭和41年1月28日 / 結論: その他
一 執行猶予の判決に対する検察官の控訴を棄却する旨の判決言渡後確定前に、検察官において、被告人が他の罪について禁錮以上の実刑に処せられた事実を覚知したのにかかわらず、右控訴棄却の判決に対して上告の申立をすることなく、これを確定させたときは、刑法第二六条第三号により右執行猶予を取り消すことはできない。 二 弁護人は、本件…
あてはめ
本件では、本件執行猶予判決の言渡し後、控訴申立期間が経過した後に初めて別件の確定判決が生じている。検察官がこの事実を覚知した時点では、既に上訴によって執行猶予の不当を是正する機会は失われていた。このように、検察官において適法な上訴等の手続により判決の瑕疵を正すことが物理的・制度的に不可能であった以上、事後的に執行猶予を取り消すことは、手続的妥当性を欠くものではなく、法が予定する取消事由に該当する。したがって、刑法26条3号に基づく取消請求は理由があるというべきである。
結論
検察官において上訴による是正の途が閉ざされていた以上、刑法26条3号による執行猶予の取消しは認められる。
実務上の射程
執行猶予の必要的取消事由(刑法26条各号)のうち、特に判決確定前の既罪発覚(3号)に関する判断基準を示している。実務上は、検察官の過失の有無よりも「上訴等による是正の可能性」の有無が重視されるため、期間経過等の客観的事実を摘示して論じる必要がある。二重処罰禁止(憲法39条)との関係でも合憲性が維持されている点に留意すべきである。
事件番号: 昭和56(し)113 / 裁判年月日: 昭和56年11月25日 / 結論: その他
一 刑の執行猶予言渡取消決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件において、裁判の執行を停止する場合には、原原決定を対象とすべきである。 二 高裁で言い渡された執行猶予の判決に対する上告申立期間の満了までに五日を残して、被告人の控訴取下により別件につき地裁で言い渡された懲役刑(実刑)の判決の確定したことが地方検察…
事件番号: 昭和59(し)117 / 裁判年月日: 昭和59年12月18日 / 結論: 棄却
刑の執行猶予の判決確定後に、同判決確定前に犯した他の罪につき禁錮以上の実刑に処する判決が確定したときは、右実刑判決が、未決勾留日数の裁定算入及び法定通算により、現実に刑の執行をなしうる余地がないものであつても、刑法二六条二号に該当する。
事件番号: 昭和28(し)28 / 裁判年月日: 昭和28年5月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】最高裁判所への特別抗告は、刑事訴訟法405条に規定する事由がある場合に限り認められ、単なる法律解釈の争いは不適法である。 第1 事案の概要:抗告人が、刑事訴訟法349条(刑の執行猶予の言渡しの取消しの手続)の解釈を巡り不服を申し立て、最高裁判所に対し特別抗告を行った事案。抗告人は主張の中で憲法違反…
事件番号: 昭和60(し)106 / 裁判年月日: 昭和60年11月29日 / 結論: 棄却
執行猶予の言渡しがあつた事件において、被告人が、捜査官に対しことさら知人である甲女の氏名を詐称し、かねて熟知していた同女の身上及び前科をも正確詳細に供述するなどして、あたかも甲女であるかのように巧みに装つたため、捜査官が全く不審を抱かず、指紋の同一性の確認をしなかつたことにより、当該判決の確定前に被告人自身の前科を覚知…