一 A東京支部からの団体交渉の要求に対し、東京都側が、その三日前および前日の際のように数百名の組合員らが東京都庁に押しかけ、場合によつては三日前の際のように庁内における正常な業務が阻害されるおそれがあると判断して(判文参照)、右団体交渉の求めを拒否したのは、正当である。 二 原判決自体においてその結論に影響のないことが明らかな憲法解釈を非難する主張は、適法な上告理由にあたらない。
一 使用者の団体交渉拒否が正当とされた事例 二 原判決自体においてその結論に影響のないことが明らかな憲法解釈を非難する上告趣意の適否
憲法28条,労働組合法1条2項,刑訴法405条
判旨
庁舎内での正常な業務が阻害されるおそれがあると判断される事情がある場合、東京都による組合員の庁内立入り禁止及び団体交渉拒否は正当である。したがって、立入りを阻止する監視員に対し暴行・傷害を加える行為は正当な組合活動の範囲を逸脱し、違法である。
問題の所在(論点)
庁内業務が阻害されるおそれがあることを理由とする東京都の団体交渉拒否および立入り禁止措置の正当性と、それに反して行われた暴行・傷害行為の違法性。
規範
労働組合が団体交渉を求める権利を有する場合であっても、使用者が庁内における正常な業務が阻害されるおそれがあると判断するに足りる客観的・合理的な事情があるときは、当該立入りを禁止し、団体交渉の求めを拒否することは正当な管理権の行使として許容される。この場合、当該拒否を無視して行われる実力行使や、阻止する者に対する暴行・傷害行為は違法性を有する。
重要事実
労働組合東京支部の組合員らが、失業対策事業の賃金等に関し団体交渉を求めるため都庁舎に赴いた。しかし、数日前にも約300名が庁内廊下に座り込み、うち100名が労務課室に乱入して課長を取り囲み、正常な執務を妨げた事実があった。これを受け東京都側は、当日も同様の混乱が生じるおそれがあると判断し、組合員の庁内立入りを禁止して団体交渉を拒否した。被告人らはこれに反し、立入りを阻止しようとした監視員らに対し暴行を加え、傷害を負わせた。
あてはめ
本件では、過去に数百名の組合員が庁内に座り込み、執務室に乱入して職員の正常な業務を妨げた具体的な前例が存在する。このような状況下では、東京都側が再度同様の事態が生じると判断し、業務の正常な遂行を確保するために立入り禁止及び交渉拒否の措置を講じたことは、管理権の行使として正当である。正当な理由に基づく拒否に際し、立入りを強行しようとして監視員に暴行を加え傷害を負わせた行為は、労働基本権(憲法28条)を背景とした正当な組合活動の範疇を逸脱しており、刑法上違法であると評価される。
結論
東京都の措置は正当であり、被告人らの暴行・傷害行為は違法である。原判決に法令違反はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
公共施設の管理権と労働基本権の衝突事案において、過去の具体的な妨害行為の存在を「業務阻害のおそれ」の判断材料とする基準を示している。正当な業務管理権の範囲内であれば、団体交渉の拒否も適法となり、それに対する暴行等の実力行使は正当防衛や正当行為として免責されないことを論証する際に用いる。
事件番号: 昭和38(あ)2256 / 裁判年月日: 昭和40年9月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合員による組合活動であっても、その手段が暴行を伴うなど社会通念上許容される限界を超える場合は、当然に違法性が阻却されるものではない。また、争議行為を禁止する規定自体の違憲性は、当該暴力的な行為の違法性判断を左右しない。 第1 事案の概要:国家公務員である被告人らは、勤務時間内職場集会への参加…
事件番号: 昭和61(あ)1311 / 裁判年月日: 平成3年11月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】争議行為等の労働組合活動が正当性を有し違法性を欠くというためには、その動機や目的のいかんにかかわらず、態様が社会通念上許容される限度を超えないものでなければならない。 第1 事案の概要:被告人らは労働組合活動の一環として何らかの行為(具体的な実行行為の内容は判決文からは不明)に及んだが、その態様が…
事件番号: 昭和41(あ)1510 / 裁判年月日: 昭和43年3月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公共企業体等労働関係法17条1項に違反してなされた争議行為であっても、労働組合法1条2項の適用は排除されないが、暴力の行使を伴う行為は正当性の限界を越えるため刑事免責の対象とならない。 第1 事案の概要:被告人らは、公共企業体等労働関係法17条1項の規定に違反して争議行為を行った。その際、被告人ら…