判旨
刑法34条の2第1項により「刑の言渡しはその効力を失う」とされているのは、刑の言渡しに基づく法的効果が将来に向かって消滅するという趣旨であり、刑の言渡しを受けたという既往の事実そのものが抹消されるわけではない。したがって、同条項により刑の言渡しが効力を失った前科であっても、裁判所が量刑判断の際にこれを考慮することは許される。
問題の所在(論点)
刑法34条の2第1項により「刑の言渡しが効力を失った」場合において、当該前科の存在を量刑判断の資料(情状)として考慮することが許されるか。同条項の「効力を失う」の意味が問題となる。
規範
刑法34条の2第1項に規定される「刑の言渡しはその効力を失う」とは、刑の言渡しに基づく法的効果が将来に向かって消滅するという趣旨を指す。これは、刑の言渡しを受けたという既往の事実そのものまでがなくなるという意味ではない。
重要事実
被告人に前科が存在していたが、刑法34条の2第1項の規定により、当該前科に係る刑の言渡しは既にその効力を失っていた。原審は、この効力を失った前科の存在を量刑判断に際して考慮した。これに対し弁護人は、効力を失った前科を量刑上の不利益な事情として考慮することは、同条項に違反するとして上告した。
あてはめ
刑法34条の2第1項は、一定期間の経過等により資格制限等の法的効力を消滅させることで、受刑者の社会復帰を助ける点に趣旨がある。もっとも、犯行に至る経緯や被告人の性格等を把握する上で、過去の犯罪事実は重要な指標となる。本件において、原判決が所論前科を量刑判断の資料としたことは、あくまで既往の事実を考慮したものにすぎず、同条項が否定する法的効果の存続を前提としたものではない。したがって、同条項の趣旨を逸脱するものではなく、適法な量刑判断といえる。
結論
刑の言渡しが効力を失った前科を量刑上考慮することは、刑法34条の2第1項に違反しない。したがって、原判決の量刑判断は正当であり、本件上告は棄却される。
事件番号: 昭和56(あ)1977 / 裁判年月日: 昭和57年5月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑の言い渡しの効力が消滅した前科であっても、その言い渡しを受けたという既往の事実自体を量刑上参酌することは、憲法14条1項に反せず適法である。 第1 事案の概要:被告人は、過去に刑の言い渡しを受けた前科を有していたが、当該前科は刑法27条又は34条の2第1項の規定に基づき、既に法律上の効力を失って…
実務上の射程
刑事実務および答案作成において、前科の抹消(刑の消滅)と量刑資料としての利用可能性を峻別する基準となる。資格制限等の「法的効果」は消滅するが、犯情や一般情状としての「事実」としての評価は妨げられないため、検察官の論告や裁判所の量刑理由において、消滅した前科を言及する際の根拠として機能する。
事件番号: 昭和43(あ)2338 / 裁判年月日: 昭和44年2月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】量刑の判断において、犯行の罪質、態様、被告人の家庭事情、性行、経歴、犯罪後の情況等に加え、特に前科の点を考慮することは当然に許容され、憲法14条等に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が犯した具体的な犯罪事実は判決文からは不明であるが、被告人に対し量刑が言い渡された際、原審が前科の存在を考量資料…
事件番号: 昭和44(あ)908 / 裁判年月日: 昭和44年10月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】起訴されていない犯罪事実であっても、それが本件起訴にかかる犯罪事実の情状として認定され、量刑の資料とされるにすぎない場合は、憲法31条、39条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が刑事起訴された事案において、原判決が起訴されていない一定の事実を認定した。これに対し弁護側は、当該事実を量刑の資料…