判旨
保釈保証金没取決定(刑訴法96条2項)をするに際し、被告人または弁護人に陳述の機会を与えないことは、憲法29条および31条に違反しない。
問題の所在(論点)
刑訴法96条2項に基づく保釈保証金没取決定の手続において、被告人または弁護人に陳述の機会を与えないことが、憲法29条、31条に違反するか。
規範
保釈保証金の没取は、被告人の逃走等による公判手続の停滞を防止するための制裁的措置である。その決定に際して被告人等に陳述の機会を与えるべき旨を定めた規定はなく、告知・聴聞の機会を付与せずになされたとしても、適正な手続を求める憲法31条や財産権を保障する憲法29条に抵触するものではない。
重要事実
被告人が保釈中に逃走または召喚に応じなかった等の事情(詳細は判決文からは不明)により、第一審裁判所が刑訴法96条2項に基づき保釈保証金の没取を決定した。これに対し被告人側が、当該決定のプロセスにおいて被告人や弁護人に陳述の機会が与えられなかったことは、憲法29条(財産権)および31条(適正手続)に違反するとして抗告したもの。
あてはめ
最高裁は、先行する大法廷判例(昭和43年6月12日決定)の趣旨を引用し、保釈保証金の没取決定について陳述の機会を付与しなかったことの憲法適合性を判断した。没取はあらかじめ定められた保釈条件の違反に対する付随的な法的効果として行われるものであり、裁判所が没取事由の有無を資料に基づき合理的に判断する限り、特段の陳述の機会を経ずとも憲法上の適正な手続の要請に反するとはいえない。したがって、本件において陳述の機会が与えられなかった点に憲法違反の瑕疵は認められない。
結論
保釈保証金没取決定において陳述の機会を与えないことは、憲法29条および31条に違反しない。
実務上の射程
事件番号: 昭和43(し)40 / 裁判年月日: 昭和43年7月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保釈保証金の没取決定において、決定前に告知、弁解、防御の機会が与えられていなくても、事後に抗告による不服申立ての機会が保障されている限り、憲法31条および29条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人の保釈保証金について没取決定がなされた。これに対し、被告人側は、決定に先立ってあらかじめ告知、弁解…
刑事手続における付随的処分(没取等)と適正手続の関係を論じる際の参照判例となる。司法試験上は、告知・聴聞の機会の要否が問題となる場面で、手続の性質や性質上の緊急性・合理性を考慮して、必ずしも対審構造をとる必要がないケースの例証として活用できる。ただし、現在の実務・運用上の解釈(準用規定の有無等)とは別に、憲法上の最低限度の要請を判示したものと理解すべきである。
事件番号: 昭和43(し)99 / 裁判年月日: 昭和44年2月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保釈保証金没取決定において、対象者に対し事前の告知、弁解、防禦の機会が与えられていなくても、事後に不服申立ての途が認められていれば、憲法31条および29条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が保釈中に遵守事項に違反した等の事情により、裁判所が保釈保証金の没取を決定した。これに対し抗告人は、没取…
事件番号: 昭和59(し)87 / 裁判年月日: 昭和59年9月4日 / 結論: 棄却
保釈取消及び保釈保証金没取の決定をするについて事前に被告人に陳述・防禦の機会を与えなくとも、憲法三一条、二九条に違反しない。
事件番号: 昭和55(し)108 / 裁判年月日: 昭和55年9月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保釈の取消しおよび保釈保証金の没取を決定するに際し、被告人等に陳述の機会を与えなくても、憲法13条および29条に違反しない。 第1 事案の概要:本件において、裁判所は被告人の保釈を取消し、あわせて保釈保証金の全部または一部を没取する決定を下した。これに対し、申立人(抗告人)は、当該決定を行うに際し…
事件番号: 平成27(し)533 / 裁判年月日: 平成27年9月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保釈の取消し及び保釈保証金の没取を決定するにあたり、被告人に対して事前に弁明や説明の機会を与えないことは、適正手続を定める憲法31条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が保釈中に保釈条件に違反したとして、原々審は被告人に事前に弁明や説明の機会を与えることなく保釈を取り消し、保釈保証金の全部を没…