司法警察員が押収物を被害者に還付した後、当該押収物が他に売却、搬出され、被害者方に存在しなくなつた場合には、当該被害者還付処分の取消を求める準抗告は、実益を欠き、不適法である。
司法警察員が被害者に還付した押収物がその後被害者方に存在しなくなつた場合と当該被害者還付処分の取消を求める準抗告の適否
刑訴法124条,刑訴法222条1項,刑訴法430条
判旨
司法警察員が行った被害者還付処分について、還付された押収物が既に第三者に売却・搬出され受還付者のもとに存在しない場合には、処分を取り消す実益が失われているため、還付取消を求める準抗告は不適法となる。
問題の所在(論点)
司法警察員による被害者還付処分の取消しを求める準抗告(刑事訴訟法430条1項)において、還付された押収物が既に受還付者のもとに存在しない場合、当該準抗告の適法性(取消しの実益)は認められるか。
規範
刑事訴訟法第430条第1項に基づく準抗告において、裁判所が処分を取り消すことによって得られる法的利益(実益)が認められない場合には、当該申立ては不適法として棄却(却下)されるべきである。具体的には、還付された目的物が既に他者に処分されるなどして、原状回復や処分の是正が不可能な状態に至っている場合には、取り消しの実益がないと判断される。
重要事実
司法警察員は、押収物(被害品)を株式会社Aに対して還付する処分を行った。これに対し、還付処分の取り消しを求める準抗告が申し立てられたが、原決定が行われる前の時点で、当該押収物は既に株式会社Aから第三者へ売却および搬出されており、同社の手元には存在しない状態となっていた。
事件番号: 平成4(し)64 / 裁判年月日: 平成4年10月13日 / 結論: 棄却
差押処分が違法として取り消されたため、司法警察員が当該差押物を返還する行為は、刑訴法四三〇条二項の押収物の還付に関する処分には当たらず、これに対する準抗告の申立ては、不適法である。
あてはめ
本件において、還付の対象となった押収物は既に株式会社Aから売却・搬出されており、同社には現存しない。このような状況下では、たとえ司法警察員による還付処分を取り消したとしても、押収物を取り戻すなどの実効性を伴う救済を図ることができない。したがって、刑訴法421条但書の趣旨に照らし、当該還付処分を取り消す実益がないといえる。よって、本件準抗告の申立ては、適法な不服申立てとしての要件を欠いていると解される。
結論
還付された押収物が既に存在せず、処分を取り消す実益がないため、本件準抗告は不適法として棄却されるべきである。
実務上の射程
捜査機関の処分に対する準抗告において「取消しの実益」という訴えの利益が要求されることを示した。もっとも、還付された物の権利関係については、刑訴法222条1項・124条2項に基づき、別途民事訴訟の手続によって解決することが明定されており、刑事手続上の準抗告のみが救済手段ではない点に留意が必要である。
事件番号: 平成1(し)76 / 裁判年月日: 平成元年10月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】押収物の還付が既になされた場合、当該押収処分の取消しを求める準抗告は申立ての利益を欠き、裁判をする実益がないものとして棄却される。 第1 事案の概要:司法警察員は、被告発人(申立人代表者)から物件の任意提出を受けて押収し、また捜索差押許可状に基づき物件を押収した。申立人はこれらの押収処分の取消しを…
事件番号: 昭和45(し)18 / 裁判年月日: 昭和45年9月17日 / 結論: 棄却
司法警察員がした差押処分等の取消を求める準抗告棄却決定に対する特別抗告が最高裁判所に係属中に当該差押物件が準抗告申立人に還付された場合には、差押処分等の取消を求める法律上の利益を欠くに帰したものであり、特別抗告が、この法律上の利益があることを前提とするときは、前提を欠くものとして棄却を免れない(最高裁判所昭和四二年(し…
事件番号: 昭和44(し)70 / 裁判年月日: 昭和44年10月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法上の特別抗告(刑訴法433条)において、違憲主張が実質的な法令違反にすぎない場合や、判例違反の具体的摘示がない場合は、正当な抗告理由にあたらない。 第1 事案の概要:抗告人は、原決定に対し最高裁判所へ特別抗告を申し立てた。抗告の趣旨において憲法違反を主張したが、その内容は実質的に単なる法令違反…
事件番号: 令和7(し)177 / 裁判年月日: 令和7年11月10日 / 結論: その他
刑訴法430条の準抗告裁判所は、捜査機関の処分の当否を判断するに当たり、捜査機関が当該処分当時に収集していた資料のみならず、その当時の事実に関する資料であって、その後に捜査機関が収集し、又は裁判所に提出されたものについても考慮に入れるべきである。