判旨
公職選挙法による戸別訪問の禁止は、単なる政党機関紙の講読勧誘にとどまらず、選挙に関し特定の候補者に投票を得しめる目的で行われる場合には、憲法21条に違反しない。
問題の所在(論点)
公職選挙法における戸別訪問の禁止が、選挙運動を目的とする行為に対し適用される場合に、表現の自由を保障する憲法21条に違反するか。また、政党機関紙の勧誘名目であっても、投票依頼の目的が併存する場合に同法が適用されるか。
規範
公職選挙法による戸別訪問の禁止規定の合憲性については、その目的が選挙の公正を確保し、選挙人の自由な意思決定を妨げるおそれのある不当な働きかけを防止することにある点に鑑み、表現の自由(憲法21条1項)を侵害するものではないと解する。
重要事実
被告人は、日本共産党の機関紙「アカハタ」の講読勧誘を名目として戸別訪問を行った。しかし、その実態は単なる販売目的の勧誘にとどまらず、特定の日本共産党立候補者に投票を得しめる目的をもって行われたものであった。この行為が公職選挙法違反(戸別訪問の禁止)に問われた際、被告人側は当該規定が憲法21条等に違反すると主張して上告した。
あてはめ
本件において被告人の行った戸別訪問は、形式的には「アカハタ」の講読勧誘という形をとっているが、原審の認定によれば、特定の立候補者に投票を得しめる目的が含まれていた。単なる商業的な新聞販売行為であれば公職選挙法の規制対象外となり得るが、本件のように選挙運動の目的が認定される以上、同法の禁止する戸別訪問に該当する。このような態様での規制は、選挙の公正を期するための合理的な制約であり、憲法21条が保障する表現の自由の範囲を逸脱するものとはいえない。
結論
特定の候補者への投票を目的とする戸別訪問を禁止することは憲法21条に違反せず、被告人の行為に同法を適用して処罰することは適憲である。
実務上の射程
本判決は、戸別訪問禁止の合憲性を前提としつつ、行為の「目的」の認定によって規制の可否を判断している。答案上は、戸別訪問禁止規定の合憲性を論じる際、目的が単なる言論の自由の行使(機関紙販売等)にとどまらず「選挙に関し投票を得しめる目的」がある場合には、公選法による規制が正当化されることを示す根拠として活用できる。
事件番号: 昭和58(あ)1775 / 裁判年月日: 昭和63年9月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公職選挙法による戸別訪問の禁止および法定外文書頒布の禁止は、憲法21条等の諸規定に違反せず、これを本件に適用することも憲法31条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人らは、公職選挙法が禁じている戸別訪問および法定外の文書頒布を行ったとして、同法違反(138条1項、142条1項等)に問われた。これ…