判旨
公職選挙法による戸別訪問の禁止は、選挙の公正を確保するための合理的制限であり、憲法21条に違反しない。また、特定の政党員であることを理由に起訴や判決がなされた事実は認められないため、憲法14条にも違反しない。
問題の所在(論点)
1. 公職選挙法による戸別訪問の禁止規定は、憲法21条の保障する表現の自由を侵害し違憲か。2. 本件の公訴提起および実体判決は、被告人の政治的信条を理由とした差別であり、憲法14条に違反するか。
規範
選挙の公正を期するために設けられた戸別訪問の禁止規定は、その結果として言論の自由に一定の制限をもたらすことがあっても、公共の福祉による合理的かつ必要な制限として憲法21条に違反しない(昭和25年9月27日大法廷判決踏襲)。また、公訴提起や判決が特定の政治的信条のみを理由として差別的に行われない限り、憲法14条の法の下の平等に反することはない。
重要事実
被告人は、日本共産党員として選挙運動に関連する戸別訪問を行ったとして、公職選挙法違反の罪で公訴を提起された。これに対し、被告人側は、検察官による公訴提起および下級審の判決が被告人の政治的信条を理由とする差別的なものである(憲法14条違反)とともに、公職選挙法の戸別訪問禁止規定自体が表現の自由を保障する憲法21条に違反すると主張して上告した。
あてはめ
1. 憲法21条について:戸別訪問の禁止は、買収や利害誘導の防止、選挙の平穏維持といった「選挙の公正」という正当な目的のために行われるものである。この禁止により言論の自由に付随的な制限が生じるとしても、それは合理的な範囲に留まる。2. 憲法14条について:記録を精査しても、検察官の公訴提起や原審の判断が被告人が日本共産党員であることを理由として差別的になされたことを示す証拠は存在しない。したがって、差別的取り扱いの事実は認められない。
結論
公職選挙法の戸別訪問禁止は憲法21条に違反せず、本件手続において憲法14条違反の事実も認められないため、上告を棄却する。
実務上の射程
選挙運動の自由に対する制限(戸別訪問禁止)の合憲性を肯定したリーディングケース。答案上では、表現の自由を制約する法律の合憲性判断において、「選挙の公正」という目的が公共の福祉として重視される文脈で使用する。ただし、現在は「合憲性判定審査基準」を用いた論証が一般的であるため、本判決を引用しつつも、比較衡量や厳格な合理性の基準に繋げる必要がある。
事件番号: 昭和42(あ)1464 / 裁判年月日: 昭和42年11月21日 / 結論: 棄却
公職選挙法第一三八第一項は、選挙に関し、同条所定の目的をもつて戸別訪問をすることを全面的に禁止しているのであつて、戸別訪問のち、選挙人に対する買収、威迫、利益誘導等、選挙の公正を害する実質的違反行為を伴い、またはこのような害悪の生ずる明白にして現在の危険があると認められるもののみを禁止しているのではない。