判旨
公職選挙法142条による文書頒布の制限は、選挙の公正を確保するための合理的な制限であり、憲法21条に違反しない。また、特定の政治家や活動家を狙い撃ちした弾圧目的の起訴であるとの主張は、その事実が認められない限り採用されない。
問題の所在(論点)
1. 公職選挙法142条および243条による選挙運動中の文書頒布制限は、憲法21条に違反するか。2. 特定の政党活動家であることを理由とした起訴は、憲法14条に違反し公訴権の濫用として無効となるか。
規範
選挙の公正を確保するために設けられた公職選挙法142条および243条による規制は、憲法21条が保障する表現の自由を不当に侵害するものではなく合憲である(昭和30年4月6日大法廷判決参照)。また、検察官の公訴提起が特定の思想信条を理由とした差別的取扱い(憲法14条違反)に該当し公訴権の濫用となるためには、起訴の目的が不当な弾圧にあること等の具体的客観的事実が認められなければならない。
重要事実
日本共産党の活動家であった被告人が、選挙運動に関し、法定の場所以外で文書を頒布したとして、公職選挙法違反(142条、243条)の罪に問われた。被告人側は、同法の規定が憲法21条に違反すると主張した。さらに、本件起訴は被告人が共産党員であり、優れた活動家であることを理由になされた弾圧目的のものであるとして、憲法14条(法の下の平等)に違反し、無効な起訴であると主張して上告した。
あてはめ
憲法21条違反については、従前の大法廷判決の趣旨に照らし、選挙の公正保持という目的のための合理的な制限であり、判例を変更する必要はない。また、憲法14条違反については、記録を精査しても、本件起訴のねらいが被告人の思想信条を理由とした弾圧や日本共産党への攻撃にあるという事実は認められない。したがって、差別的な起訴であるとの主張は前提を欠いている。
結論
公職選挙法の規定は合憲であり、また本件起訴が弾圧を目的とした不当なものであるとの事実も認められないため、上告を棄却する。
実務上の射程
公職選挙法による表現の自由の制限に関する合憲性を再確認した事例である。また、公訴権濫用論(特に差別的取扱い)の主張に対し、裁判所が「起訴のねらい(不当な目的)」という主観的要素の存否を検討している点は、刑事訴訟法上の公訴棄却の可否を検討する際の参考となる。
事件番号: 昭和54(あ)664 / 裁判年月日: 昭和55年5月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公職選挙法142条1項による文書頒布制限、同法243条3号の罰則、及び同法252条の選挙権・被選挙権の停止規定は、いずれも憲法15条、21条1項、31条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、選挙に際して公職選挙法142条1項が禁止する文書(通常葉書等以外の文書図画)を頒布したとして、同法24…