選挙運動のため戸別に演説会の開催又は演説の実施を告知する行為が、単に選挙人に対して右の事実を知らせるというだけの域にとどまらず、その演説会への参加の呼びかけ又はしようようを伴い、その他なんらかの形で選挙人に特定の候補者を強く印象づけてその候補者の投票獲得に有利な効果を生ぜしめようとするものと認められる方法・態様で行われた場合には、これに公職選挙法一三八条二項を適用しても憲法二一条、三一条に違反するものではない。
公職選挙法一三八条二項を適用しても憲法二一条、三一条に違反しないとされる場合
公職選挙法138条2項,憲法21条,憲法31条
判旨
選挙運動のための戸別告知の禁止(公職選挙法138条2項)は、表現の自由を制約するが、公正・公平な選挙の確保という合理的な理由があり、代替的な告知手段も存在するため、憲法21条に違反しない。
問題の所在(論点)
公職選挙法138条2項が、選挙運動のために戸別に演説会の開催等を告知する行為を「戸別訪問」とみなして禁止していることが、表現の自由を保障する憲法21条に違反するか。
規範
政治的表現活動としての演説会の告知は原則として自由であるべきだが、公正・公平な選挙確保のため、特定の手段・態様の告知を制限・禁止する合理的理由があり、かつ他の方法による告知が可能で目的を達成できる場合には、憲法21条に違反しない。特に、単なる事実の伝達を超え、参加の呼びかけ等により特定の候補者を強く印象づけて投票獲得に有利な効果を生ぜしめる態様で行われる告知は、実質において戸別訪問と同視でき、脱法的性格を有するため、禁止の合理性が認められる。
重要事実
被告人は参議院議員通常選挙に際し、特定候補者と同一政党に所属する者として、投票日の10日前に選挙人宅15戸を連続して訪ね、戸内に立ち入った。そこで、当日開催される個人演説会を報じたビラ(赤旗号外)を配布するとともに、演説会の開催を告げて参加を呼びかけた。
あてはめ
被告人の行為は、特定の候補者に投票を得させる目的で行われたものである。また、単に演説会の実施日時を周知させるにとどまらず、選挙人宅を連続して訪問し、戸内に立ち入って直接ビラを配布し、参加を強く呼びかけるものであった。このような態様は、選挙人に対して当該候補者を強く印象づけ、投票獲得に有利な効果を生ぜしめようとするものであり、実質的に戸別訪問と同視できる。さらに、演説会の告知には戸別訪問以外にも有効適切な方法が存在するため、本規定による制限は合理的である。
結論
公職選挙法138条2項は、憲法21条及び31条に違反しない。
実務上の射程
戸別訪問禁止(138条1項)の合憲性を判示した猿払事件等の判例の趣旨を、2項のみなし規定にも及ぼしたものである。答案上は、単なる事実の告知を超えて「参加の呼びかけ」や「投票依頼に準ずる効果」が認められる具体的な態様がある場合に、本判例を引用して規制の合理性を肯定する流れで用いる。
事件番号: 昭和55(あ)874 / 裁判年月日: 昭和56年6月15日 / 結論: 破棄差戻
公職選挙法一三八条一項の規定は、憲法二一条に違反しない。