一 選挙運動のため戸別に特定の候補者の氏名を言いあるく行為を禁止した公職選挙法一三八条二項の規定は、憲法二一条に違反しない。 二 近隣住民から候補者に対し立候補しても挨拶に来ないなどの誹謗中傷がされていることを聞知した候補者の夫が、右誹謗中傷により低下した候補者への印象を回復するため、現に選挙騒音を受けていた団地の入居者を戸別に訪れ、選挙騒音の謝罪挨拶をした中で候補者の氏名を挙げてこれを言いあるいた本件行為(判文参照)は、公職選挙法一三八条二項にいう「選挙運動のため戸別に特定の候補者の氏名を言いあるく行為」にあたる。
一 公職選挙法一三八条二項の規定と憲法二一条 二 公職選挙法一三八条二項にいう「選挙運動のため戸別に特定の候補者の氏名を言いあるく行為」にあたるとされた事例
公職選挙法138条2項,憲法21条
判旨
公職選挙法138条2項が、選挙運動のため戸別に候補者の氏名を言い歩く行為を禁止していることは、戸別訪問禁止の脱法行為を防止する合理性があり、表現の自由を保障する憲法21条に違反しない。
問題の所在(論点)
選挙運動のため戸別に特定の候補者の氏名を言い歩く行為を禁止する公職選挙法138条2項が、表現の自由を保障する憲法21条に違反するか。また、謝罪挨拶を主目的とする訪問において氏名を告げる行為が同条の禁止行為に該当するか。
規範
戸別訪問の禁止(公選法138条1項)が合憲であるとの判例法理を前提とし、同条2項による「氏名を言い歩く行為」のみなし禁止についても、①戸別訪問の脱法行為として行われるおそれを防止する合理的な目的があること、②それによる制約の程度が戸別訪問禁止の場合と比して大きくないこと、の2点から合憲性を判断する。
重要事実
市議会議員選挙に立候補したAの夫である被告人は、Aに対する誹謗中傷を解消し印象を回復するため、投票日直前に現に選挙騒音を受けていた団地の入居者を戸別に訪れた。その際、騒音に対する謝罪挨拶の過程で「Aです」「うちの家内が」などと候補者の氏名を言い歩いた。
あてはめ
被告人の行為は、誹謗中傷による印象悪化を回復し、特定候補者への投票を有利に導く効果を持つものであり、「選挙運動のため」といえる。また、騒音謝罪という名目であっても、戸別に氏名を言い歩くことは候補者を強く印象づける効果があり、戸別訪問禁止の潜脱を招く。したがって、かかる行為は同条2項にいう「候補者の氏名を言い歩く行為」に該当すると評価される。制約の程度も、戸別訪問自体が禁止されている以上、その脱法行為の禁止に伴う制約として許容範囲内である。
結論
公職選挙法138条2項は憲法21条に違反せず、被告人の行為は同条の禁止行為に該当する。したがって、有罪とした原判決は正当である。
実務上の射程
選挙運動の自由の制約に関する判例として、戸別訪問禁止の合憲性を維持する立場を再確認するとともに、その脱法行為の禁止も同様に合憲であるとする射程を示している。答案上は、目的の合理性と制約の程度の均衡という二重の基準等の具体的審査基準に当てはめる際の「目的の正当性」や「手段の合理性」の論拠として活用できる。
事件番号: 昭和43(あ)1940 / 裁判年月日: 昭和44年2月6日 / 結論: 棄却
公職選挙法一三八条一項は、選挙運動としての戸別訪問には、種々の弊害を伴い選挙の公正を害するおそれがあるため、選挙に関し同条所定の目的をもつて戸別訪問することを全面的に禁止しているのであつて、戸別訪問のうち、選挙人に対する買収、威迫、利益誘導等選挙の公正を害する実質的違反行為を伴い、またはこのような害悪の生ずる明白かつ現…